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「ボクシング理論・試論」 (「対抗言論の理論」補強修正試論)

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三 高橋教授が「対抗言論の理論」等により、違法性を払拭ないし減殺しようとした行為については、上記のような現状認識にもとで、「言論による相互批判と非難の応酬」の中で発せられた「不穏当な発言ないし相手の諸感情等を爆発せしめるような誘発発言」等により、「過剰防衛的な発言等」が生じ得るのであり、これらの偶発的な爆発的発言等については、

1 「誤想過剰防衛の理論」を一部援用し、

2 また高橋教授の主張する「対抗言論の理論」のもつ社会的相当性

3 そして前記したような「相互批判の応酬をし合うという特殊な?場?に自らの意思と責任で参加してきていることによる危険への接近理論、推定的承諾の理論、これらも換言すれば社会的相当性の理論」等により、

4 その違法性の阻却ないし減殺を肯定すべきである。

違法性というものが、「侵害行為の態様と種類、そして被侵害利益、法益の種別等の相関関係」から捉えられるものである(前記加藤他・135頁以下)という前提に立てば、「個人的人格という名誉に対する侵害行為が起きやすい場」に自らの意思と責任できた以上、「言論による侵害に対しては対抗言論で侵害を防御する、という意思と責任が要求される」という立論はあながち不当なものではなく、特に被侵害者の発言等が言論による侵害行為、過剰防衛発言等を誘発したというような事情が認められる場合には、これら議論の流れ等は「侵害行為と目される過剰防衛発言等の違法性」の内容、程度の評価にあたり十分考慮に値するものであり、このような論理は現在の民事、刑事法における違法性阻却等の理論に、融和可能であると考えられる。

四 違法性阻却ないし減殺の前提条件

下記のような要件の全てをみたす名誉毀損的な発言等については、違法性の阻却ないし減殺を考慮すべきである。

違法性阻却の有無ないし違法性減殺の程度については、「名誉毀損的発言を誘発した発言内容、名誉毀損的発言内容等当該議論の流れ等諸事情」を考慮して決せられるべきである。

1 侵害行為としての発言が、当該議論ないし先行する誘発発言の議論としての延長線上にある発言であること。

名誉毀損的な発言の発言内容が、人格非難をともなうとしても、相手方の主張の意味や効果を減殺するか、相手方への人格非難が少なくとも相手方の主張の正当性ないし真摯性等を弾劾する意味 を有していると認められることが必要であろう。

----関連性の要求----

2 名誉毀損的な発言を受けた者に、当該名誉毀損的発言を誘発し たと認められるような不穏当な発言が先行していること。

例え、相互批判をし合うフォーラムというような場での議論で あったとしても、相手方になんら責められるべき点がない場合にまで、認めるべきではなかろうと思われる。

----誘発責任の存在----

3 名誉毀損的な発言については、その議論の流れ等から、通常、そのような不穏当、名誉毀損的な発言が反論ないし反駁として、なされ得ることが、予見ないし予測される状況であったこと。

何故なら、誘発発言をした人の予見と予測を超える暴言等は認めるべきではないし、その予見可能性の存在が誘発発言をした者 をして、不穏当発言の撤回と陳謝の機会を付与することとなり、

その機会を適切に使わなかったという意味で、被侵害者に対して

受忍を求めるひとつの根拠となり得る。

----予見可能性の要件・誘発発言撤回の機会付与の要件----

4 名誉毀損的発言の発言内容が、3記載の予測ないし予見可能な 範囲に属する内容と程度であること。

----相当性の要件----

5 名誉毀損的発言の内容が、その名誉毀損的な発言を受けた者が、即時、なんらの準備、調査等を要することなく、容易に言論により反論、反駁することが可能な事項を内容とすること。

当該議論の場で、即時に対抗言論によりその名誉を回復できないような名誉毀損的発言はこれを認めるべきではない。時間の経過は被侵害者の名誉の回復を困難とするからである。

----即時反論可能の要件----

6 不穏当な誘発発言等に対し、他の参加者等から「不穏当な発言である」旨注意ないし警告等が発せられた後の名誉毀損的発言で ないこと。

不穏当な誘発発言等がなされたとしても、他の参加者等から、その旨の注意ないし警告がなされた場合には、不穏当発言を受け た者もその注意、警告により、不穏当な誘発発言の問題は一応解 消したものとして続行議論に参加するべきであり、それが耐えら れないのなら、その場から立ち去ることにより、問題の勃発をさけるべきである。不穏当な誘発発言に触発等された発言に限定すべきである。

----触発発言の要件----

7 同一機会と評価され得るフォーラム等の議論の場における発言 であること。

同一の機会ないし場と評価されないようなときの発言に「誘発 性」は認めるべきではなかろうと思われる。例え、続行議論であったとしても、日が変われば認めるべきではない。

----同一の場の要件----

五 以上のような要件を具備する名誉毀損的発言については、違法 性の阻却ないし減殺を認めるべきである。

なお、仮に、以上のような違法性阻却ないし減殺という法理論 が認められないとしても、誘発発言をした者からの名誉毀損的発 言をした者に対する「不法行為を理由とする裁判上の請求」は、場合により、権利の乱用ないし信義則に違反する請求として、棄却される余地が十分あり得ることを認識すべきである。

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