第五編
強制執行(民事執行)の仕組み
大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
凡例
執行実務上・・深沢利一著・民事執行の実務・新版(上),新日本法規
執行実務中・・深沢利一著・民事執行の実務・新版(中),新日本法規
執行実務下・・深沢利一著・民事執行の実務・新版(下),新日本法規
平野執行・・・平野達郎著・実践民事執行法,民事保全法第2版,日本評論社
執行センタ・・東京地裁民事執行センタ−実務研究会,民事執行の実務,第3編,不動 産執行編(下)
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NO0 刑事裁判と民事裁判の執行
NO1強制執行(民事執行)ができる書類は、どんなもの??(債務名義)
NO2債務名義の種類など(各種の債務名義)
NO3不動産の競売は、どうするん??(不動産競売)
NO4動産の競売,銀行預金の差押えなどは、どうするん??(動産競売,債権差押など)
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No.0−刑事裁判と民事裁判の執行
刑事裁判と民事裁判では,その「判決などの執行の仕方」が根本的に違います。
その違いは,刑事判決と民事判決の対象の違いから生じてくるのです。
(刑事判決の場合)
刑事判決は社会の秩序を乱した犯罪者に処罰を加えるもの(原則)であり,従って,その刑事判決をするための刑事裁判は国を代表する国家公務員である検察官により公訴提起・起訴という形で始められ,その刑事裁判の結果である刑事判決は同じく国を代表する検察官により執行されるのです。犯罪者に対する死刑,懲役,禁固,罰金などという刑罰は刑事判決が確定すると例外なく検察官の命令により執行されるのです。
刑事判決は国家,検察官により執行することにより,国民に刑罰法令を守ることを求めているのです。
社会公益のため!! 国家,検察官が執行する 必ず執行する
(火事は
絶対に,消火しなければならない!!)
(民事判決の場合)
民事裁判の対象とされているのは,原則的に,法律が個人にその自由な処分をすることを任せているもの,私的自治の範囲内のものです。
自由処分を任されている個人が,それをどのように処分しようと自由であり,社会一般の秩序,公益とは関係ないものなのです。
例えば,他人にお金を貸した人が返してもらわなくていいと言うのも自由です。隣地の人から土地の境界を越えて侵入されている人が侵入されてもいいというのも自由です。このような個人の私的自治に任されている事項,個人の自由に任されている事項については,その本人が,どのようにしようと自由なのです。
民事裁判を起こして民事判決を得たとしても,その民事判決を取得した本人が民事判決の執行を希望しないのならば放置していていいのです。本人が希望もしないのに,国家が民事判決の執行をすることは,本人の自由に任されている事項について国家が無用な干渉をすることになります。本人からすれば「よけいなお世話」なのです。国家は個人に対し「よけいなお世話」をしてはいけないのです。
このような理由から,民事判決は,その本人が国家に対し,民事判決の執行をして欲しいと希望し,そのような申立をした場合のみに執行することとなっているのです。
「お金を返せ」という判決を得た人がいたとして,その相手方が判決に従って,自分の意思で借りたお金を弁済することもあるのです。民事判決は必ずしも執行する必要性はないのです。
本人が執行して欲しいと求め,かつ,その必要性がある場合にのみ執行すれば足りるのです。
本人の自由 社会,公益と関係なし 本人に任せておけばいい
(家庭菜園が,水不足で枯れたとしても,本人の自由です!!)
(執行機関)
刑事裁判の判決は検察官の指揮により(検察事務官,拘置所職員,刑務所職員らが)行うこととなっています。
民事裁判の執行は申立を待って,原則として,地方裁判所及び執行官が執行することとなっています(例外として,家庭裁判所,簡易裁判所や書記官の場合もあります)。
NO1強制執行(民事執行)ができる書類は、どんなもの??(債務名義)
一郎
勝訴判決が、、、でたぁ〜〜〜
・・・・
弁護士先生!!
相手の財産、自宅に、強制執行してよ〜〜〜〜!!
・・・・・・
弁護士
ちよっと、、、、、ちょっと、、待ってよ!!
勝訴判決がでても、、、直ぐには、強制執行はできないよ。
一郎
なんでよ〜〜〜〜??
裁判所が判決したじゃん!!
被告は原告の僕に1000万円を支払えって、、、、、、
僕の勝ちだって!!
弁護士
うん,でもね〜
日本の裁判は「三審制」になってい(三審制)
て、
一審の判決(一審)後、
一審の判決に不服のある当事者は控訴して控訴審の裁判所の判断を求めることができ(控訴)、
また
控訴審の判決に不服のある当事者は、法律の定めに従い、上告して、上告審の裁判所、普通は最高裁判所なんだけど、最高裁判所の判断を求めることができるようになっているん(上告)だ。
(民事・刑事、事件の内容により異なる)
要するに、
最大、三回の判断を求めることができるようになっていて、
このように上級審の裁判所に判断を求める手続を、上訴といい、通常、判決を受け取ってから、2週間間以内に上訴の手続をとらなければならないことになっているんだ。
だから、
判決がでても、当事者が上訴できる間は、
その判決は上級審で破棄、変更される可能性があることから、
その判決に基づいて、、、、、、、強制執行はできないんだ。
当事者が上訴などの不服申立ができなくなって、
その判決が、破棄されるなど変更される可能性がなくなったとき、
これを「判決の確定」というんだけど、
判決が確定して初めて、その判決で強制執行ができるんだ。
ということは、
単なる「判決」は強制執行する力はなく、
原則として,「確定した判決」に強制執行する力が認められていることとなるんだ。
(注意・・・これが原則,例外も多いけど)
このように、強制執行することができる力を持っている書類(法律上、執行力が認められている書類)のことを、
「債務名義」
(正確には,「私法上の請求権の存在と範囲を表示した公的な文書で,法律により執行力が認められたもの」を意味します。平野執行52頁参照)
と呼んでいるんだ。
一郎
そうなんだぁ〜〜〜
・・・・
うん??
でも、僕が判決を知ってから、もう2週間は経過しているよ!!
判決、、、確定しているんじゃないの??
弁護士
一郎さんは、せっかちだねぇ〜〜
そりゃ、、、、一郎さんが判決を受けてから2週間は経過しているけど、、、
相手である原告は、まだ2週間経過していないよ
なぜなら、相手は判決をした裁判所から離れた、遠隔地に住んでいるんだから、裁判所が判決を原告に郵送(特別な郵送手続)し原告が判決書を受け取るには、時間が必要だから、、、ね。
もう、少し待ってよ!!
一郎
あっ、、そうなの!!??
ついでに、教えてよ
強制執行できる書類って、「確定判決」だけなん??
弁護士
うん
いやいや、確定判決以外にも、強制執行できる力のある書類、債務名義となる書類は、いろいろあるよ!!
これから、少しづつ、勉強していこうね。
NO2債務名義の種類など(各種の債務名義)
一郎
確定した判決のように、私法上の請求権について,強制執行ができる書類のことを「債務名義」と呼ぶんだってこと、、、わかったけど、、なんなの?、、
なんで「債務名義」って、、、言うのん??
弁護士
う〜〜〜ん
民事執行法22条が,「同条に記載している強制執行ができるもの」を「債務名義」と呼ぶんだと定めているんです。
「強制執行ができる書類」っていうのは、、「債務者が債権者に履行しなければならない債務の内容と範囲」が記載されているよね。
だから、、「債務名義」って、、呼ぶのかなぁ〜??
一郎
ふ〜〜ん そう、、なん
で、、強制執行ができる債務名義という奴は、、「確定した判決」以外に、どんなものがあるの??
弁護士
いろいろ、、あるけど、、、、
こんなものかな〜〜〜〜
・ 確定判決
・ 仮執行の宣言を付した判決
・ 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
・ 仮執行の宣言を付した支払督促
・ 公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(執行証書)
・ 裁判上の和解調書
・ 裁判上の請求認諾調書
・ 調停調書
・ 破産債権者表の記載
・ 民事上の争いについての刑事訴訟手続きにおける和解の内容を記載した公判調書
など
第4編の「刑事裁判の本質的特性」で「刑事裁判と民事裁判は全く異なるものである」と説明しておきながら,上記のとおり,「民事上の争いについての刑事訴訟手続きにおける和解の内容を記載した公判調書」が民事上の債務名義になるというのは若干不思議ですね。
第4編で説明したとおり,刑事裁判と民事裁判は全く目的も手続きも異なるものですが,
刑事事件における被害者に便宜を図るために,「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」というものがあって,被害者が被告人に対し,別途民事訴訟手続きをとる手間を省略しているのです。
「人を死傷させた罪」,「強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦の罪」,「逮捕及び監禁の罪」,「未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪」などについては,その被害者らが被告人に対し損害賠償金を支払うように、刑事裁判所に対し,損害賠償命令をするように申立てをすることができることとなっています。
これらが、どんなものかは、自分で少しづつ、勉強してね!!
NO3不動産の競売は、どうするん??(不動産競売)
1 不動産の差押えの申立書を、裁判所に提出する。
(債権者による差押の申立)
2 裁判所は、その不動産の不動産登記簿謄本に、職権で、差押えがなされた旨の差押え登記を掲載し、その不動産について、競売手続が開始されたことを、公に公示する。
(裁判所による職権登記嘱託・公示)
不動産登記簿の甲区欄上の表示
「差押 大阪地方裁判所平成29年4月1日強制競売開始決定」
この不動産登記簿上の差押の登記によって,現在,その不動産について,裁判所が競売の手続きの準備ないし競売手続き中であることが公示され,わかることとなります。
(不動産競売、3点セット)
不動産競売において、不動産業者ら競売参加関係者らの間で「不動産競売、3点セット」と呼ばれるものがあります。
それは競売裁判所が作成したうえ、開示している、競売対象不動産に関する
@ 物件明細書
A 現況調査報告書
B 評価書
のことを言います。
入札に参加する場合,必ずチェックしなければならない事項が記載されていることから,俗に「不動産競売、3点セット」と呼ばれているのです。
(現況調査報告書)
入札で不動産を売却処分する場合,
その不動産が
@ どのような面積の土地,どのような床面積の建物であって,
A どこにあって,
B 現況は,どのような状態なのか
C 誰の所有なのか
D 誰が使用し,占有しているのか、賃借権その他の使用権を有している人は存在するのか。
などの詳細がわからなければ,誰の入札に参加してくれません。
そこで,裁判所は,入札しようとする人が知りたいと考えられる上記のような事項を執行官に調査させ報告書を作成させるのです。この執行官が現地を調査した報告書のことを「現況調査報告書」というのです。
(現況調査)
民事執行法57条1項
執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。
不動産が競売となった場合に,最初に裁判所から現地不動産にところに現れるのは,この現況調査のための裁判所の執行官なのです。
(評価書)
また、裁判所は、裁判所が既に地方裁判所ごとに選任している評価人である不動産鑑定士に対し、競売対象不動産についての売却最低価額などを決定するために、当該不動産についての時価評価額の鑑定を命じ,鑑定書の作成をさせるのです。この鑑定人が作成した鑑定書を評価書というのです。
(評価)
民事執行法58条1項
執行裁判所は、評価人を選任し、不動産の評価を命じなければならない。
(物件明細書)
上記の現況調査報告書及び評価書により,裁判所執行官が調査した競売対象不動産の現況などや評価人である不動産鑑定士の当該不動産の時価評価金額などが一応わかります。
これらの現況調査報告書,評価書の内容など競売記録から判明するすべての事項を資料として,
執行裁判所の書記官(裁判官ではない)が
@ その競売の対象となった不動産に関する権利などで「競売により効力を失わない権利など」や「競売により法律上設定されたものとみなされる法定地上権」など(→これらの権利は競売により落札した人に主張できることとなり,逆に言えば,落札した人がこれらの権利の制限を受けることになる)
A その他占有者,占有権限などに関する事項など
競売対象不動産の権利関係に影響を与える事項や買受けに参考となる事項を記載したものです。
(物件明細書)
民事執行法62条
裁判所書記官は、次に掲げる事項を記載した物件明細書を作成しなければならない。
一 不動産の表示
二 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの
三 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要
2 裁判所書記官は、前項の物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、又は不特定多数の者が当該物件明細書の内容の提供を受けることができるものとして最高裁判所規則で定める措置を講じなければならない。
3 ・・・
4 ・・・
この「不動産競売、3点セット」は,裁判所が不動産競売の準備が完了し,不動産競売の「期間入札の公告」をすると同時に,各地の地方裁判所の執行部ないし執行係において希望者が閲覧,謄写できるようにしています。
ただ,注意すべきなのは物件明細書の記載の意味ないし効力です。
これは執行裁判所の書記官が競売記録などを参照して判断したことを記載したものですが,裁判所は,この物件明細書の「記載が正しいということを保証するものではなく」,競売に参加しようとする人は,物件明細書の記載などを閲覧するなどして,自己責任で判断して,入札に参加するか否かを決めて下さいということなのです。
(期間入札の公告)
前記の競売3点セットなどの準備が完了すると,裁判所は一定の期間を定め,その期間内に入札書を裁判所に郵送するように入札の方法や入札の条件などを公告(期間入札公告)したうえ,入札を実施するのです。この入札公告は新聞などにも掲載されているところです。
具体的な入札の方法は入札公告を参照したり,裁判所に問い合わせするなどして調べて下さい。
(開札,売却許可決定,代金納付,配当など)
期間入札を実施した後,最高価買受申出人を確定し,売却許可決定,そして代金納付により競売による売却を行い,その後,売却代金を債権者らに配当する手続きが行われて競売手続きが終了することとなります。
(剰余主義により競売制限など)
なお,競売手続きには「剰余主義により競売制限など」があることを知っておいて下さい。
簡単に言うと,競売しようとする人に優先する人(例えば先順位の抵当権者など)が存在する場合に,競売をしても,その競売しようとする人に配当できる見込みがない場合には,その人の申立にかかる競売申立を続行すめためには制限が課せられているということです。
詳細は民事執行法63条を読んで見て下さい。
NO4動産の競売,銀行預金の差押えなどは、どうするん??(動産競売,債権差押など)
不動産以外の動産も競売可能ですし,また,債務者の銀行預金などの債権の差し押さえなども可能です。
(有体動産差し押さえ)
有体動産の差し押さえは,執行場所,即ち差し押さえしようとする「動産の所在地」を管轄する地方裁判所に所属する執行官に「動産差し押さえの申立」をします。
但し,自動車など登録を伴う強制執行手続きは,執行裁判所により競売手続がなされ,その中で,執行官が物の売却などを行います(民事執行法122条,執行官法4条)。
(債権差し押さえ)
銀行預金などの債権の差し押さえは,債務者の住所地(これがないときは,第三債務者の住所地)を管轄する地方裁判所に対し「債権差し押さえの申立」をして行うこととなります(民事執行法144条)。