不当な訴訟指揮と裁判官忌避事由・試論
大阪弁護士会所属
弁護士 服 部 廣 志
不当な訴訟指揮がなされても、当該裁判官を忌避する事由とはならず、このような場合、このような不当な訴訟指揮に基づきなされた判決に対する上訴により、不服申立をすべきであるというのが、従来の刑事訴訟法上の忌避事由についての考え方である。
しかし、著しく不当、偏ぱな場合にまで、従来の考え方でいけば、憲法、刑事訴訟法で保障された審級の利益が実質上奪われ、ひいては裁判を受ける権利の侵害となると考えるべきではなかろうか!!
被告人の人生を左右する刑事裁判において、かくも不公平、不公正な審理は、到底許容できない。
即時抗告理由書**************************************
1 原決定は、本件忌避申立について「本件申立は、要するに、同裁判官が弁護人の鑑定請求を却下したことなど、上記被告事件の訴訟手続内における審理の方法、態度等を非難するものにすぎず、これが適法な忌避の理由となり得ないことは明らかである。
また、その他記録を検討しても、同裁判官につき、不公平な裁判をするおそれがあるとうかがわせる事情は認められない。」旨説示している。
2 原決定中の「本件申立は、要するに、同裁判官が弁護人の鑑定請求を却下したことなど、上記被告事件の訴訟手続内における審理の方法、態度等を非難するものにすぎず、これが適法な忌避の理由となり得ないことは明らかである」と説示する部分については、「忌避の事由の一般論として言われていること」であり、申立人も一般論としては右の理論に異議をさしはさむものではない。
3 しかしながら、公平な裁判所を確保するために設けられている除斥の制度を補完するものとしての忌避事由は、「実質上、除斥原因に準ずる事情のある場合」とされ、他方、除斥原因が公平な裁判所として外形的、類型的な事由を挙示しているからと言って、個別的具体的な事情、例えば訴訟指揮の内容等は一切忌避事由とはなり得ないと断ずるのは不当である。
訴訟指揮の内容等が、当事者に平等に主張、立証の機会を与えるという公平な裁判の基本的要請をも否定するような著しく不公平、不当と認められるような場合には、たとえ表面的には訴訟指揮の内容等の不当、違法を主張するものであったとしても、忌避事由として認め、このような著しく不当、違法な訴訟指揮等をし、公平な裁判制度を否定する裁判官を排除すべきである。
前記のように「訴訟指揮の内容等が、当事者に平等に主張、立証の機会を与えるという公平な裁判の基本的要請をも否定するような著しく不公平、不当と認められるような場合」にも、「訴訟指揮等の内容の不当、違法は上訴審で主張すべきである」との考え方は著しく不当である。
何故なら、国民は憲法37条により、公平、公正な裁判を受ける権利を保障されているのであり、この権利に派生し憲法76条により設置された裁判所の裁判を受ける権利が認められており、現行法の下では、一審、二審そして最終審という三回の公正な裁判所の裁判を受ける権利を保障されているのである。
「訴訟指揮の内容等が、当事者に平等に主張、立証の機会を与えるという公平な裁判の基本的要請をも否定するような著しく不公平、不当と認められるような場合」にも、「訴訟指揮等の内容の不当、違法は上訴審で主張すべきである」との考え方は、実質上、前記のような、憲法で保障された裁判を受ける権利を否定することとなり得るからである。
原決定は、憲法に由来する刑事訴訟法所定の忌避事由に関する法令解釈を誤っており、これが原決定に影響しているものである。
4 さらに、原決定は「また、その他記録を検討しても、同裁判官につき、不公平な裁判をするおそれがあるとうかがわせる事情は認められない。」旨説示しているが、後記のとおりの、本件公判の全審理の過程を勘案すれば、本件公判は、検察官にのみ十分過ぎるほどの主張、立証の機会を 付与し、他方、弁護側の正当な立証活動等に機会を付与せず、加えて・・・省略・・・・到底、本件担当裁判官に「公正な裁判」など期待できないところであり、原決定は事実を誤認するか、事実評価を間違い、それが原決定に影響しているところである。
5 本件公判の審理の概要等は、次のとおりである。
・・・・・・ 省略・・・・・
本件公判においては、検察官立証のみがなされ(被告人質問は除く)、弁護側の唯一の立証とも言うべき本件鑑定申請が、合理的な理由もなく、かつ担当裁判官の・・・・・・・・により却下されており、刑事被告人側に科学的弁明の機会すら与えられておらず、憲法、刑事訴訟法に反するものであり、担当裁判官の著しく不当、違法な予断と偏見、偏ぱに基づくものであって、本件忌避申立は認められるべきである。
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外形的、類型的な公平な裁判所を阻害する事由(除斥事由)を補完するものとしての忌避事由については、従前のような「訴訟指揮等は含まれず、例外はない」という解釈論理を否定する必要もあるのではないかと考えています。
もとより、忌避事由を無限定にし、忌避申立乱用による訴訟審理妨害は排斥する必要性はありますが、少なくとも「著しく不当な訴訟指揮等」の場合には、例外的にでも、「忌避事由となる」としてもらわなければ・・・・と思います。
田宮裕編著「刑事訴訟法1」523頁では、「審理方式ないし態度が著しく違法不当であって、それが審理外の一般的な偏ぱの可能性を徴表する場合は別であろう」と記載され、訴訟指揮であっても、忌避事由となり得る可能性に言及されている。
しかし、右論述でも「審理外の一般的な偏ぱの可能性を徴表する場合」と述べられおり、不十分ではないかと考える。端的に、「審理の内外を問わず、偏ぱの可能性を徴表する場合」とすべきであろう。
前記田宮裕編著でも「審理外の一般的な偏ぱの可能性を徴表する場合」と限定論述されているのは、「忌避制度は除斥制度を補完するもの」という命題にひきづられているものと推測される。忌避制度は除斥制度を補完するというようなものではなく、「除斥制度とあいまって公平な裁判所を担保する制度」と考えるべきである。
「訴訟指揮は忌避事由とはならない」という従前の解釈論理が、裁判官の独善と傲慢さをうむ場合がある、と推測もしています。
PS1−3月4日
審理外の公平、公正な裁判を阻害するおそれがあると一般的に認められる事由があれば除斥事由ないし忌避事由となり得るにもかかわらず、現実、具体的に偏ぱな訴訟審理を進行させても、忌避事由とならない、というは論理的にどうなんでしょうか?
職権の独立や法と良心のみに従うということ、そして訴訟審理妨害排除という要請があるにしても、現実、具体的に「著しく不当、偏ぱな訴訟指揮等をしている場合」には忌避事由となり得ると考えて差し支えないのではないでしょうか?
「著しく・・・」という要件を要求することにより、訴訟審理妨害を排除できることとなり、また、再度の忌避申立には、簡易却下制度などを活用することにより右の要請を実現することも可能である。
PS4−3月4日
即時抗告理由補充書************************************
抗告の理由の補充
原決定は、1976年3月23日に発効し、日本国が1979年6月21日批准している国内法に優先する条約「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第14条に違反するものであり、取り消されるべきものである。
同規約14条3項は、「すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する」と定め、「e) 自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること」という内容の権利の保障を宣言している。
本件刑事事件においては、本件事故時に被告人運転車両が停止していたのか、動いていたのか、という点が重大な争点であり、この点に関する検察官立証は「被告人運転車両は動いていた」とする松下鑑定及び松下証言であり、これに対する反対立証として、弁護側にも弁護側推薦の鑑定及び証人による立証の機会を付与するのは当然であり、特に右の松下鑑定は自動車工学鑑定という高度に専門的なものであることから、弁護側推薦、申請の自動車工学鑑定申立を却下した本件担当裁判官の訴訟指揮は、弁護側に科学的弁明の機会を付与しないという著しく不当なものであり、また上記人権規約に明らかに違反する偏ぱなもので、到底許容されるものではなく、本件忌避申立を却下した原決定は取り消されるべきものである。
国際人権規約抜粋
第十四条
1すべての者は、裁判所の前に平等とする。
すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。
報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
2刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。
3すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。
(a) その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること。
(b) 防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。
(c) 不当に遅延することなく裁判を受けること。
(d) 自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること。
(e) 自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。
(f) 裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。
(g) 自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないこと。
以 上
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PS5−3月6日
即時抗告理由補充書その2*********************************
抗告の理由の補充
憲法98条2項所定の条約遵守義務を通じて、裁判所は常に人権規約を遵守する憲法上の義務がある。
また、仮に刑事訴訟法の条項が被疑者・被告人にとって人権規約の規定より不利であった場合(規約に違反している場合)においても、日本国が締結、批准している1981年8月1日効力発生の「条約法に関するウイーン条約」により、人権規約・条約締結国は「条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」こととなっており、裁判所は人権規約に適合するように刑事訴訟法等を解釈する義務があり、また裁判官は刑事訴訟法により認められた訴訟指揮権については人権規約に適合するよう行使する義務がある。
【国際人権規約抜粋】
第二条
1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。
2 この規約の各締約国は、立法措置その他の措置がまだとられていない場合には、この規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため、自国の憲法上の手続及びこの規約の規定に従って必要な行動をとることを約束する。
3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。
(a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。
(b) 救済措置を求める者の権利が権限のある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。
(c) 救済措置が与えられる場合に権限のある機関によって執行されることを確保すること。
条約法に関するウィーン条約 抄
【法令番号 】昭和五十六年七月二十日条約第十六号
【施行年月日】昭和五十六年八月一日外務省告示第二百八十二号
この条約の当事国は、国際関係の歴史における条約の基本的な役割を考慮し、条約が、国際法の法源として、また、国(憲法体制及び社会体制のいかんを問わない。)の間の平和的協力を発展させるための手段として、引き続き重要性を増しつつあることを認め、自由意思による同意の原則及び信義誠実の原則並びに「合意は守られなければならない」との規則が普遍的に認められていることに留意し、条約に係る紛争が、他の国際紛争の場合におけると同様に、平和的手段により、かつ、正義の原則及び国際法の諸原則に従つて解決されなければならないことを確認し、国際連合加盟国の国民が、正義と条約から生ずる義務の尊重とを維持するために必要な条件の確立を決意したことを想起し、人民の同権及び自決の原則、すべての国の主権平等及び独立の原則、国内問題への不干渉の原則、武力による威嚇又は武力の行使の禁止の原則、すべての者の人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の原則等国際連合憲章に規定する国際法の諸原則を考慮し、この条約において条約法の法典化及び漸進的発達が図られたことにより、国際連合憲章に定める国際連合の目的、すなわち、国際の平和及び安全の維持、諸国間の友好関係の発展並びに国際協力の達成が推進されることを確信し、この条約により規律されない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則により規律されることを確認して、次のとおり協定した。
第三部 条約の遵守、適用及び解釈
第一節 条約の遵守
第二十六条(「合意は守られなければならない」) 効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。
第二十七条(国内法と条約の遵守) 当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。
PS6−3月7日
即時抗告棄却決定*********************************
訴訟指揮を忌避事由として認めると、忌避の乱用−裁判制度の否定のおそれ・・・あること・・・・わかっています。
でも・・・例外、ないの・・・??
という、問いかけ・・・の・・・つもりだったんだけど・・・??
だからこそ・・「著しく不当な場合・・・」・・・・・・と
限定つけたつもりだったんだけど・・・・・・・・・・・????
やはり、無理か〜〜〜〜ぁ??
一般論で、棄却されちゃった!!
「著しく不当な場合も、そうだ」・・・・・と断定する勇気は・・・・・持っていないのかな・・・??
PS6−3月9日
最高裁判所へ特別抗告申立*********************************
PS7−6月15日
最高裁判所・特別抗告棄却
特別抗告は、あっさりと棄却された。
しかし
その間に準備した鑑定書・証人申請・・・
裁判所は、とうとう証人申請を採用した・・・証人尋問後、鑑定書も採用される。
闇に・・・光が・・・・
うっすらと・・・見えてきた・・・・無罪への道が!!
以 上