IT関連法解釈裁判例
大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
わいせつ画像データーとわいせつ物、陳列等
大阪高裁平成11年8月26日判決
このようなわいせつ画像データが記憶・蔵置された被告人のコンピューターのハードディスクは、刑法一七五条所定のわいせつ物に包含されるというべきである。そして、本件ハードディスクは、絵画や写真等の伝統的な図画の概念からは外れるとしても、象形的な方法でパソコン画面に容易に表示できるわいせつ画像のデータが記憶・蔵置されていることから、規範的な意味において、同条にいう「図画」の概念に当てはまる
本件ハードディスク内のわいせつ画像データを閲覧するに当たり、所論が指摘するユーザー側の一連の行為の介在が必要なことは、わいせつな画像や音声が磁気情報として記録されたビデオテープをビデオデッキ及びテレビモニターを使用して、可視的な形ないし音声に変換して再生閲覧する場合に比して、データの抽出方法や使用機器等に差異はあるものの、これと本質的に異なるところはない
ハードディスクは、それ自体で一個の完結した記憶装置であるところ、本件ハードディスクの中に、わいせつ画像データと並んでこれと無関係なデータが記憶・蔵置されているとしても、わいせつ画像データは分散して記憶・蔵置されており、その磁気ディスク部分をこれと無関係なデータと物理的に峻別して特定することは極めて困難であると認められるから、原判決が本件ハードディスク全体を一個のわいせつ物とした判断に誤りがあるとは認められない。
わいせつ画像データをコンピューターのハードディスク内に記憶・蔵置させて、ホストコンピューターの管理機能に組み込み、会員が、電話回線を通じてパソコンにより被告人のホストコンピューターのハードディスクにアクセスしさえすれば、いつでも、容易に右ハードディスク内に記憶・蔵置されたわいせつ画像のデータをダウンロードすることなどにより、右データをわいせつ画像としてパソコンのディスプレイ上に顕現させ、閲覧することが可能な状態を作出し、もってわいせつ画像が社会内に広範に伝播することを可能にし、健全な性風俗が公然と侵害され得る状態を作出したものであるから、被告人が、本件ハードディスクを右のような状態に置き、ホストコンピューターにアクセスしてきた不特定多数の会員に、右データをダウンロードさせて再生閲覧させた所為が、わいせつ物の陳列に該当するとした原判決の認定・判断に誤りはない。
被告人によって前記のとおり健全な性風俗が公然と侵害され得る状態が作出されている以上、陳列という要件は満たされているというべきであって、(典型的なわいせつ物公然陳列罪の特徴として認められる陳列と観覧の)「同地性」や(情報伝達の)「同時性」が、同罪成立のための必要不可欠な要件になるものと解することはできない