「利息の天引等と貸金業法43条適用の有無」
(執筆中未完成−メモ状態−原稿)−11/1/2日加筆・補正
三井哲夫弁護士・元東京高裁判事の「利息の天引ないし先払いと貸金業法43条」レポート(NBL・NO714)に対する反論
平成13年**月*日
大阪弁護士会所属(元神戸地裁裁判官)
弁護士 服 部 廣 志
前注
表題のレポートをまとめようとし始めましたが、いろいろすることが多くて、まとめ上げる時間がないというか、整理完成予定未定なので、執筆中、メモ状態原稿をアップすることとしました。
反論要旨は記載しているので、私の反論の趣旨は理解して貰えるものと思っています。
ぼちぼち、整理、完成させます。勘弁して下さい。
一 問題の所在
1 天引き利息金については貸金業法43条1項の適用はなく、いわゆる「みなし弁済」とすることはできないとするのが裁判例(不適用説)であり、各地裁の見解は右不適用説でほぼ一貫しているところ、商工ファンド側弁護士事務所に所属する三井哲夫弁護士・元東京高裁判事が、NBL・NO714号において、「利息の天引ないし先払いと貸金業法43条」と題するレポートを発表し、これらの裁判実務の見解に異を唱え、要件事実論をも展開しながら、「天引き利息金についても貸金業法43条1項の適用はある」(適用説)と主張している。
2 要件事実論で著名な三井哲夫弁護士のレポートではあるものの、これには「元本・利息金についての基本的理解」に疑問があるのみならず、「要件事実論の基本とも言うべき事実と評価の峻別」という基本原則を無視する極めて不当なものと思われる。
以下、三井レポートの記載を引用しながら、その理由を述べる。
二 三井レポートの裁判例の理解
不適用説を採用する裁判例のあげる理由は、次のとおりである。
1 これらの裁判例が、その論拠とするところは次の三点である。
イ 債務者の支払に任意性がない(実質的根拠の一)。
東京高裁平成12年7月24日判決が「利息天引の約定で消費貸借契約が締結される場合、債務者らは天引を承認しなければ貸付を受けることができないのが通常であるから、これを債務者が任意に支払ったということは困難」であるというのがその典型であり、前記**の大阪地判、東京地判がこの立場をとる。
ロ 利息の天引は、貸金業規制法43条が定める「利息の支払」にあたらない(実質的根拠の二)。
名古屋地裁平成7年5月30日判決この立場をとる。他にこの論拠を採用した判決はみあたらない。
ハ 貸金業規制法43条1項は、利息制限法2条の特則ではない(形式的根拠)。
大阪高裁平成11年12月15日判決が「貸金業規制法第43条第1項は、法文上明らかではないが、利息制限法第1条第1項または第4条第1項の特則であって、同法第2条の特則ではなく、同条の規定する天引利息には貸金業規制法第42条第1項は適用されないと解される」としているのがその典型であり、前記**東京高判・大阪地判・東京地判が、いわば実質的根拠の一のつっかえ棒として、この点にも言及している。
三 三井レポートの論旨
論旨1
これらの裁判例が、「天引=支払の非任意性」と短絡的に結論を引き出しているのは正しくないし、少なくとも、正確ではない。天引とは要するに利息の先払の一種だが、利息の先払は、手形貸付や手形割引の場合には当然のこととして取引社会で認められているのだから、天引の場合だけを眼の敵にするのは間違っている。
利息天引が違法になるのは、それが詐欺、錯誤、強迫等によって強制された場合にかぎられる。すなわち、利息天引がそれ自体で違法であるわけではなく、その支払が任意性を欠いた場合に違法となる(貸金業規制法43条の「みなし弁済」の適用を受けられない)にすぎない。
天引利息に「みなし弁済」の適用を認めなかった若干の裁判例(前記東京高判、大阪地判、東京地判等)も一様に、支払に任意性がないことを(当該事件の)利息天引が「みなし弁済」になりえない根拠としている。
支払い任意性の有無は、利息支払時の諸般の事情を考慮して判断すべきであり、天引がなされたとの一事をもって軽々にその任意性を否定すべきではない。先払でも後払でも、借り入れた者の負担が同率であるかぎり、手形貸付方式に慣れ親しんでいる事業者には何ら不当なものではなく、「任意に支払った」という要件を満たすのである。
東京地裁判決が指摘するように「利息を先払いするのでなければ貸付を受けられない状況で」なされた場合には天引が違法となるのか。
イ 貸金業者から資金を借り入れるのは、すでに銀行や信用金庫等から融資を受け入れられないような窮境にある場合である。そのようにせっぱ詰まった状態にあるから、銀行や信用金庫等よりも多少は厳しい条件でも借り受けざるをえないのである。
ロ そして、ここで注意しなければならないのは、借主をそのような窮境に陥れたのは貸金業者ではない。借主本人の事業経営上の不手際とか、長引く不況とか、そういう貸金業者とはまったく関係のない事情によって、多少は不利な条件でも借り受けざるをえなくなったのである。
これを 「貸金業者によって借財に追い込まれた」とするのは不当である。
ハ したがって、銀行や信用金庫等よりも厳しい条件でも、それが公序良俗に反するような明らかに違法なものでないかぎり、これを非難する理由はない。
ニ 「利息を先払いするのでなければ貸付を受けられない状況で」といういい方のなかには、貸付を受けるのが借主の当然の権利であるような響きが感ぜられるが、これは明らかにおかしい。
貸金業者はには貸付の自由があり、その一方で、借主には借りない自由もある。ただ、他では貸してもらえないから、利息天引という条件を甘受したにすぎない。
ホ 利息の大引は、要するに商取引の一内容である。そのなかの一条件が一方に不利だからといってそれだけで違法視するのはあたらない。
へ 天引を強制して無理矢理貸し付けられたというのもおかしい。
借主には借りない自由があるだけでなく、返済する自由もある。
論旨2
以上述べたところを要件事実的に構成すれば、次のようになる。
イ 借主が不当利得返還請求の請求原因として主張すべき要件事実(民法七〇三条=権利発生事実)は次のとおりである。
借主の損失
貸金業者の利得
利得と損失の因果関係
利得の不当性
ロ 「利得の不当性」は実定法の要件事実により補完されなければならず、本件の場合でいえば、それは利息制限法一条一項所定の要件事実である。
ハ 貸金業者が、これに対して違法性阻却事由として主張すべき抗弁事実(貸金業規制法四三条一項 権利発生障害事実)は、次のとおりである。
@ 消費貸借契約締結のときに貸主が貸金業者であったこと
A 業として行なう金銭消費貸借上の利息または損害金の契約に基づく支払であること
B 利息制限法に定める制限額を超える金銭を債務者が利息または損害金と指定して
任意に支払ったこと
C貸金業規制法一七条の規定により法定の契約書面を交付している者に対する支払であること
@ 貸金業規制法一八条の規定により法定の受取証書を交付した場合における支払であること
ニ 間題は、「天引」の主張が再抗弁となるか否かである。裁判例の多くは、これを肯定するのであろうが、この点は大いに問題とする余地がある。
@ もし、これを肯定するのならば、この再抗弁は抗弁事実B「支払の任意性」に向けられていることになる。裁判例のほとんどが、「天引は、任意の支払とはいえない」と断言しているからである。
*******
A しかし、それならば、この再抗弁事実は一体何に該当するのであろうか。
それが権利消滅事実でないことは明白である。
天引は契約の当初になされるのであるから 「支払の仕意性」が事後に消滅することはありえない。
次に、権利阻止事実は、権利行使を「一時的に」阻止するにすぎないから、それが永久に続くことはありえない。阻止事由はいつかは消滅しなければならない(このことは、同時履行の抗弁のことを考えれば、直ちに納得のいくことであろう)。したがって、天引がそのような抗弁でもありえないことは明白である。
結局、天引を再抗弁として構成するのならば、それは権利発生障害事実以外にありえないことになる。
B それでは、「天引がなされた」という事実は、権利発生障害事実か。
古典的な通説に従えば、弁済は準法律行為であって、法律行為ではない。それ故、効果意思(弁済意思)は要求されないから、錯誤・詐欺・強迫等意思表示の瑕疵は論理的にありえないはずである。
より正確にいえば、弁済は、一部の学説が主張するごとく、単なる事実行為にすぎない。
何故かといえば、弁済は準法律行為の三つのカテゴリー(意思の通知・観念の通知・感情の通知)のいずれにも該当しないからである。
しかし、現実の問題として錯誤や詐欺・強迫によって弁済することはありうる。
そこで、通説は、事実行為である弁済に意思表示の環痕に関する規定を準用する方便として、何らの根拠も示さないで、これを準法律行為として、より正確にいえば準法律行為に準ずるものとして法律行為に関する規定を準用したのである)。
C したがって、要件事実的にいえば、弁済が錯誤や詐欺・強迫によってなされたことは権利発生障害事実ではなくて (したがって、再抗弁ではなくて)、
弁済が適法になされたことを疑わせるに足りる間接事実なのである。その結果、たとえば錯誤者に重大な過失があるときには、再々抗弁ではなくて間接反証になるわけである。
D 「天引がなされた」という主張は、再抗弁ではなくて、弁済の任意性を疑わせるに足りる間接事実なのである。
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すでに前記の各裁判例が繰り返し指摘しているごとく、利息は前払よりも後払の方がよいに決まっているからである。
E しかし、借主の側に天引に応ずべき特段の事情 (たとえば、他に借入のあてがないとか、借り換えができるとか、期限の猶予が得られるとか)があれば「天引が
なされた」という事実から弁済の非任意性を推認せしめた事実上の推定は覆滅する。 すなわち、それは間接反証である。
これを再抗弁とするのは、本来、自由心証の領域内にあるものを、無理矢理、法
解釈の問題に祭りあげる愚を冒すことになる。
*****
卜 我妻博士は、以上の消息を次のように説明されている。
「少なくとも、契約自由の」原則上、天引契約自体を無効とすべき根拠はあるまい。必要なことは、利息制限法の趣旨を貫くことである。然るときは、天引契約においては、契約の通りに、全額について消費貸借が成立するものとなし、かつ、天引は利息の前払だと認め、ただ利息制限法を適用するにあたっては、現実に交付された金額について利息制限法の許す最高限の利息額を算出し、これを超過する天引部分は元本に充当されたと見るのが至当である」。
そして、注意しなければならないことは、利息制限法二条は、この我妻説を全面的に採用したということである。
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論旨3
利息制限法1条1項と貸金業規制法43条1項とは、まさにこの基礎規定と反対規定の関係にある (すなわち、請求原因と抗弁の関係にある) が、貸金業規制法43条1項と利息制限法2条とはどう考えても基礎規定と反対規定の関係にはない (すなわち、抗弁と再抗弁との関係にはない)のである。
そして、貸金業規制法43条1項と利息制限法2条とは、どう考えても原則と例外の関係ではない(例外規定の方が原則規定よりも先に制定されているかどということはあり得ない)。
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論旨4
利息の天引は貸金業規制法四三条が定める「利息の支払」にあたらない
(実質的根拠の二)
先に述べたように、名古屋地裁は、「合意により利息の天引が行われたとしても、それは、『利息としての支払』 には当たらない」と判示したが、何らその論拠を示しておらず、単に結論を断定的に述べたにすぎない。
平成二年一二月一〇日の東京地裁の判決とは異なり、その後これに追随する裁判例がみられないのは、やはり、その断定が著しく説得力に欠けているからであろう。
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論旨4の2
これは、貸金業者側の抗弁である「B利息制限法に定める制限額を超える金銭を債務者が・利息または損害金と指定して・任意に支払ったこと」に対して、借主側の「天引きがなされた」という主張を、東京地裁のように「任意に・に対する理由付否認として」ではなく、名古屋地裁は「利息または損害金と指定して」に対する理由付否認としてとらえたものと思われる。
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論旨5
元来、「金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭」 は、利息制限法三条により当然「利息」と看傲されるはずである。
しかるに、貸金業規制法四三条がわぎわざ「利息・損害金と指定すること」を要件に加えたのは、この指定は、単なる弁済充当の指定ではなくて、本来無効な利息・損害金債務の弁済を有効とする要件の一として、債務者の積極的な意思を要するとしたのである。
論旨6
4 ところで、天引の約定は、当然に「利息」前払の約定であるから、債務者の 「利息として支払う」意思が示されされていることは明らかである。
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一旦、元本全額交付し、前払いとして利息支払う−−のと同視できるとの論旨と推測される。
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論旨7
名古屋地裁は、明らかに、「債務者が利息として支払っても、もともと制限超過部分の利息・損害金は存在しない以上、これに対する指定は無意味であり、結局その部分に対する指定がないのと同一に帰する」とした昭和39年11月18日の最高裁大法延判決を曲解して、利息制限法二条によって元本に充当される部分は 「利息」としては存在しない、すなわち、たとえ大引の約定に債務者の「利息として支払う」意思が示されていたとしても、それは無意味であると考えたのであろう。
5 しかし、この考えは正当ではない。
制限超過部分の利息・損害金はは存在しないのではない。それは、大法廷判決の言葉の綾にすぎないのだから、杓子定規にとってはならない。
利息制限法一条が明言するごとく、制限超過部分の利息・損害金は「無効」であるにすぎない。もし、そうでなければ、同法二条は 「存在しない超過部分を元本に充当する」という奇妙なことになろう。
すなわち、無効な行為は行為としては存在するのであって、その不存在とは明確に区別しなければならない。
何故かといえば、無効の行為は追認によって有効としうるが、不存在の行為には、その余地もないからである。
6 これを本件に印していえば、制限超過部分の利息・損害金は、その違法性の故に無効である。
しかし、それが貸金業規制法四三条の要件をみたすときは、適法性が阻却され、有効となる。当然、それまで無効であった利息支払の合意も、有効になる。従って、その支払は、まさに 「利息としての支払」である。
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論旨8
四
貸金業規制法四三条一項は利息制限法二条の特則ではない(形式的根拠)
1 「貸金業規制法第四三条第1項は、利息制限法第一条第一項または第四条第一項の特別であつて、同法第二条の特別ではなく、同条の規定する天引利・思には貸金業規制法第四三条第一項は適用されないと解される」という議論も多くの裁判例に見い出すことができる。
その根拠は、おそらく次のようなものであろうと思われる。
イ 利息制限法二 条二項は、「債務者が制限超過部分の利息を任意に支払ったときは、…その返還を請求することができない」と規定し、同法四条二項は、賠償予定額の制限にこれを準用している。
ロ この規定は、周知のとおり、最高裁判例によって骨抜きにされた
ハ ニの判例に対しては、栽妻博士の強硬な反対があったので、立法者は、判例法理のうち「任意支払部分」について貸金業規制法四三条の例外を定めたのである。
すなわち、貸金業規制法四三条は利息制限法一条二項または四条二項の特別である。
利息制限法二条には、一条二項・四条二項のような規定がない。したがって、天引の場合には貸金業規制法四三条は適用されない。
この理論は明らかにおかしい。
イ この理論に従えば、貸金業規制法四三条は利息制限法一条二項または四条二項の特別であるとしなければなるまい。
しかるに、各裁判例が一致して貸金業規制法四三条は、利息制限法一条一項または四条一項の特別であるとしているのは明白な論理的矛盾である。
ロ 仮に、二項を一項といい間違えたとの弁解を容認するとしてもやはりおかしい。何故かといえば、この埋論を貫徴すれば要件事実は次のようになる。
@ 請求の原因は、利息制限法一条一項(法定制限超過)である(原則)。
A これに対して、同条二項(任意の支払)が抗弁になる (例外)。
E したがって、その例外規定である貸金業規制法四三条の主張は再抗弁になる (例外の例外)。
ハ この要件事実の構成を一瞥しただけでも、奇異の感は拭えない。
@ 「支払が任意になされた」という主張が抗弁にも再抗弁にも登場する。
ノン・リケット (真否不明)の場合には裁判所は原告被告のいずれに軍配をあげるのか。
A 再抗弁の内容は、次のようになる。
a 消費貸借契約締結のときに貸主が貸金業者でなかったこと
b 業として行なう金銭消費貸借上の利息または損害金の契約に基づく支払でないこと
C 利息制限法に定める制限額を超える金銭を
・ 債務者が
・ 利息または損害金とし指定しないで
・ 任意でなく
・ 支払ったこと
・貸金業規制法一七条の規定による法定の契約書面を交付しなかったこと
・ 貸金業規制法一八条の規定による法定の受取証善を交付しなかったこと
B それがすべて消極的証明であることからくる立証の囲難(やには眼を瞑るとしても、これが貸金業者側の抗弁であつたときには、そのいずれか一の証明に成功すれば借主は膵訴できたのに、再抗弁ともなればすべての証明に奏功しなければならず、借主側の不利は明白であり、到底採用できない理論である。
ニ 貸金業規制法四二条の諸要件は貸金業者が立証すべきであることに反対する者はいないだろう。
すなわち、それは貸金業者が提出すべさ抗弁であって、借主が再抗弁として主張すべきものではない。
したがって、貸金業規制法四三条は、各裁判例が無意識のうちに自白してしまったごとく利息制限法一条一唄または四条一項の特別であって、利息制限法一条二項または四条二項の特別ではありえない。
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論旨9
貸金業規制法四三条は、各裁判例が無意識のうちに自白してしまったごとく利息制限法一条一唄または四条一項の特別であって、利息制限法一条二項または四条二項の特別ではありえない。
かくて、利息制限法二条を虚心に読めば、「天引き額が債務者の受領額を元本として前条第一項に規定する利率により計算した額を超えるときは=…・」とあるのは 「天引額が債務者の受領額を元本として前条第一項に規定する利率 (貸主が貸金業規制法第四三条第J項の要件を充たすときにはそれにより許容される利率) により計算した額を超えるときは……」 と読み替えなければならないのである。
卜 また、実質論からいっても、利息後払の場合には貸金業規制法四一二条が適用されるのに天引すなわち利息の前払の場合には何故それが適用されないのか、支払うべき金額が両者同額の場合には、その理由を知ることは困難であろう。
チ 立法者の意図は、利息制限法一条(四条)二項に関する判例法理を否定することなく、同条一項を修正するにあったとみるのが正しい。
条文の体裁からみても、利息制限法一条一項または四条一項は、制限超過部分を無効とする規定であり、同法二条は制限超過部分を元本に充当する規定であり、その性質を異にしている。
貸金業規制法四三条が利息制限法二条の例外規定となることはありえないからこそ、立法者はこの点に関し沈黙を守ったのである。
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四 三井レポートへの反論と三井レポートの致命的欠陥
前払い利息の意味と利息制限法
1 利息とは、元本利用ないし利用可能性の対価である
2 従って、元本が借り主の支配下に入って初めて、利息は発生するものである。
3 三井弁護士は、「利息の先払い・前払いと利息天引き」とを同一のものと把握して、「利息の先払いが認められているのに、利息の天引きのみを目の敵にするのは間違っている」旨主張する。
しかしながら、この三井論旨は前提が間違っている。
先払い利息ないし前払い利息というのは、前記のような元本使用の対価としての利息の性質を保有していないのである。
将来、利息金が発生した場合、当該利息金に充当することが当事者で合意されている無利息合意の預かり金と称すべきものである。
その性質は、例えれば、前払い賃料と同種のものである。
即ち、時の経過とともに、元本使用の対価としての利息金が発生し、利息金が発生するとともに、この利息金に充当されるべき預かり金員である。
4 従って、先払い利息金ないし前払い利息金と表現されるものの、利息金に充当されることが合意されている預かり金員というのが正当である。
当事者間で授受された時点においては、利息金ではない。単なる預かり金であり、その精算は、当該預かり金の性質、目的ないし当事者間の合意に従い、将来利息金として充当される、その充当関係の中で精算されるべきものである。
例えば、前払い利息金として支払った金員についても、当事者間で、約定弁済期日前の弁済が認められ、かつその場合の利息金についての特別の合意がない場合には、支払い利息金の一部の返還が認められる(認められない)等当事者間の合意等により、その精算態様は多様になるのである。
5 そして、右の前払い利息金=預かり金としての精算(=利息金計算)については利息制限法等の利息金等に関する法令の適用を受けるのである。
6 利息制限法所定の「利息天引き」は、
イ 利息金の前払いは、正確には将来利息金に充当されることが予定されている預かり金の授受である。
ロ この預かり金の精算については、前記のように、利息制限法所定の利率制限に従わさせなければならない。
ハ そのテクニックというか、法技術が、利息制限法2条である。
ニ 利息とは元本使用の対価であるという利息金計算の基本に従っているだけである。
元本は、授受された天引き後の金員であり、その授受された元本に従った利息金計算をしたうえ、超過金員は借受元本に充当するという利息金の性質からすれば当然とも言うべき法理を明示しているのである。
ホ ニ記載の計算により、天引きという方法の「利息金前払い=預かり金」を利息制限法に従い精算計算しているのであり、当然とも言える計算方法である。
この精算計算が、「利息金」の「支払い」に該当しないことなど、自明の理である。
ル 要件事実論で著名な弁護士三井哲夫・元東京高裁判事の前記論文は、要件事実論の基本とも言うべきカントの法学方法二元論、「事実と評価の峻別」を忘れ、「預かり金を、即、利息金」と短絡的に評価するという重大な誤謬を犯しているのである。
この精算計算が、「利息金の支払い」に該当しないことなど自明の理であることから、この清算計算には利息制限法43条の適用の余地はないのである。
ヘ このような利息前払い特約には、ひとつの「変則合意」が存在する。
ト 授受した金額ではなく、「天引き前の金額を元本として、利息金計算する」という。
リ これは、利息金の性格からすると、不当である。厳密には、事実と理論に反する合意である。
ヌ しかし、利息制限法は、このような「元本・利息金」という正しい理論と異なった金融業界の慣行を・・即ち、「貸付金から利息金相当金額を控除した貸し付け=天引きについて、その元本金額を、天引き前の当事者間の約定元本金額とする 」という理論的には不当な慣行を・・容認した。
それが、利息制限法2条である。
論旨2への反論
「支払いの事実」を否認しているのである。弁済事実の否認である。
三井レポートは、「支払いという事実を存在する」と前提して、論を進めており、前提自体失当である。
論旨への反論
事実の存否に目をつぶり、事実と評価を混同する愚を犯すものである。
論旨3への反論
そりやそうですよ
貸金業規制法43条1項と利息制限法2条とは、基礎規定と反対規定、原則規定と例外規定の関係にはない。
当然ですよ。全く、異質の規定である。
「天引き」という方法により控除された名目貸付金元本部分は、元本使用ないし保持の対価としての利息金発生原因とは理論上も実際上もなり得ないことから、事実に即した元本及びこれに対する発生利息金という正当な関係に計算し直す」という趣旨の規定である。
この規定は、利息発生原因たる元本という性格上、事理当然の規定である。
当事者間においてなされた「名目元本金額合計」及び「利率」等の約定について、契約自由の原則から、これを容認するものの、強行法規たる利息制限法の趣旨は貫徹させる、というのが利息制限法2条の趣旨なのである。
「名目元本金額合計を前提とした、当事者間の約定利率」については、利息制限法の範囲内であれば問責する理由もないことから、これを認めているのである。
このような理由から、天引きの場合、天引き額が同法2条に従った計算を超過する場合には、元本に充当したものと「みなし」、充当後の残元本についての当事者間の約定利率による利息金の発生を認めているのである。
論旨4への反論
とんでもない。
前記のとおり、この名古屋地裁の判示が正当なのである。
三井レポートは、「元本への弁済充当とみなす」という「弁済という事実行為が存在しないにもかかわらず、利息制限法の趣旨を貫徹させるがための、弁済がなされ、元本に充当されたものとみなす」という利息制限法2条の評価規定を、「弁済という事実の存在」を前提としたものと誤解した立論なのである。
論旨4の2への反論
違うって
単なる弁済事実、不存在の主張ですよ
論旨6への反論
天引きは−−前払いではないって・・・・利息制限法2条は前記のとおり、事実を度外視した評価規定である。前払い利息金の授受の極限とも評価し得べき利息天引きについて、利息制限法という強行法規に従わせるための評価規定である。
前払い(その極限の利息天引き)という元本・利息金の基本理論に反するものを金融業界の慣行として容認するものの、利息制限法に従わせるための評価規定である。実質貸付元本、貸し主に対する利息制限法の規制貫徹のための評価規定である。 この利息制限法を遵守させるための評価規定が、貸金業法43条と無縁の規定であることなど、その立法趣旨からすれば明白であり、「貸金業法43条が天引き利息金にも適用される」などという三井論文は、事実と評価の峻別を無視し、元本・利息金の法的性格を無視し、利息制限法2条の立法趣旨を理解しない、到底採用などできない誤謬に満ちた論理なのである。
天引き利息につい、利息金発生前に、将来発生しうべき利息金に充当する目的で預けた金員であるというように、事実を度外視して、前払い金員と−同視して−利息制限法に従わせるための評価規定である。
「支払い欠如」なのであるる。
前払いの場合には、前払いの利息金に充当すべき預かり金が存在し、時の経過とともに、利息金が発生し、約定に従って、預かり金が利息金に弁済充当されていくという関係にあるのである。この預かり金が、発生利息金に弁済充当される場合にも、当然利息制限法の適用があり、利息制限法に違反する預かり金の弁済充当は無効となるのである。但し、この場合には、「前払い預かり金交付と弁済充当の合意の存在」をして、弁済という事実の存在は肯定してよいのである。
天引きの場合、これは前払いの極限形態といってもいいものであるが、この場合には、「預かり金は存在しない」ものであり、弁済充当の合意をしても、弁済という事実を認定することは困難なのである。利息制限法2条は、天引きの場合にも利息制限法を貫徹させるために、「元本充当したものとみなす」というような一見、「弁済を擬制するような評価をする」が、これはあくまで利息制限法の趣旨を貫徹する、その目的の、その限りにおいての擬制なのであって、「弁済という事実」が存在しないにもかかわらず、あたかも存在するかのように擬制するものでは決してないのである。
この利息制限法貫徹目的のための利息制限法2条の趣旨を、三井論文は理解し得ていないものであり、同条の意味を曲解しているものなのである。
********************
前払い利息は、無制限ではないのである。当然、利息制限法の適用を受けるのである。
論旨7への反論
とんでもない。
前記のとおり、名古屋地裁判示が正当なのである。
三井レポートは、本件を「無効な行為と不存在とは明確に区別しなければならない」と論じて、本件を「無効な事例」と断じている。
三井レポートこそ、「無効な行為と不存在とを混同する」誤りを犯しているのである。
名古屋地裁の「債務者が利息として支払っても、もともと制限超過部分の利息・損害金は存在しない以上、これに対する指定は無意味であり、結局その部分に対する指定がないのと同一に帰する」との判示は正当なのである。
天引きの場合には、利息制限法2条に従い、事実に即した元本及びこれを前提とした発生利息金の計算を行うこととなっており、ここには「制限超過部分の利息・損害金」というものは存在しないのである。
利息ないし超過利息は、その発生原因たる元本の保持と時の経過そして利率の約定により発生、存在するに至るのである。そのいずれかが欠如しても、利息・超過利息は存在し得ないものなのである。
利息天引きの場合、消費貸借契約成立(元本授受)と同時に、利息制限法2条の引き直し計算がなされることから、ここには「制限超過部分の利息・損害金」というものは存在しないのである。自明の理である。名古屋地裁判示は、当然過ぎるほど正当なのである。
計算例をあげて、三井レポートの不当性を明らかにしてみる。
例えば、 名目元金 1000000円
利率約定年30%
30万円天引きで70万円交付
この場合、利息制限法2条により、消費貸借契約成立した時点=70万円の授受した時点において、残元金は利息制限法2条が適用され、30万円から12万6000円を控除した残額の82万6000円と確定するのである。残債務元金、即ち利息金を発生せしめる債務元本金額は82万6000円と確定するのである。
他方、1年経過した時点において、70万円に対する年18%に相当する12万6000円を限度として利息金として認められるのであるものの、12万6000円という天引き・前払い金員が、利息金として確定するのは1年経過した時点においてなのである(正確には、時の経過とともに、発生確定していくものである)。
即ち、消費貸借成立の時点おいては、利息金は発生していない(貸付当日分の利息はさておき)、不存在なのである。
不存在であることなど自明の理であるが、それをより明確にするため、前記の事例において、天引き金額を10万円、受け取り金額を90万円と仮定してみる。1年経過した時点において、利息制限法2条により認められる利息金は90万円の18%相当の16万2000円となることから、「1年経過した時点において」、借り主は天引き金額10万円を控除した残額の6万2000円の未払い利息金債務が残ることとなるのである。決して、消費貸借成立時点において、未払い利息金6万2000円が確定するわけではないのである。消費貸借成立時点においては、未払い利息金は0である。そのように評価されるのである。
三井レポートの論理に従えば、「消費貸借成立して時点において、未払い利息金6万2000円が存在する」ということとなる。このような論理が不当であることは誰の目にも明らかである。
三井レポートは、自ら「不存在と無効とを混同する愚」を犯しているのである。
論旨8への反論
貸金業規制法43条1項は、利息制限法第一条第一項または第四条第一項の特別であつて、同法第二条の特別ではないという裁判例の判示は正当なのである。
利息制限法1条に対する例外規定として、貸金業規制法43条1項が存在するのである。
ただ、最高裁判例により、利息制限法1条2項が「骨抜き」とされていた状況の下で、貸金業法43条1項が制定されたのであり、同条項は、利息制限法1条の例外規定であることは、最高裁判例の変遷とその変遷をふまえて制定された貸金業法43条の立法過程から明らかである。
最高裁平成2年1月22日判決も、右のような関係にあることを認めていると解されるのである。
論旨9への反論
不当な論理である。
何故、貸金業法43条1項が利息制限法1条1項または4条1項の特則であれば、利息制限法2条を上記のように読み替えなければならないのか、根拠、理由が示されていないのである。利息制限法についての、前述したような、利息制限法貫徹のための、その限りにおいての評価規定であることを理解しない、不当なものである。
三井論文は、貸金業法43条1項及び利息制限法2条の立法趣旨等を検討するという法律解釈の基本すら無視し、事実と評価を混同させて、不当な論理展開をしているに過ぎないものである。
消費貸借の要物性にも反し、かつ元本、利息金の性格という基本的な理論にも反する「利息天引き消費貸借契約」について、当事者の合意ないし金融業界の慣行を受け入れるものの利息制限法の趣旨は貫徹させるという利息制限法2条と貸金業法所定の手続きを履践している場合には、貸金業法の枠内で受領した利息制限法超過利息金の保持を認めるという貸金業法43条1項とは、その立法趣旨、射程距離を全く異にする規定であることを理解しない不当なものなのである。
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要検討課題
1 三井論文は、本件論点を考えるについて、一連の最高裁 により骨抜きにされていた利息制限法1条2項を要件事実の 連鎖に取り込むべきとの前提で、不適用説を批判しています。
2 このような論理に、疑問を感じています。
貸金業法43条は、骨抜きにされていた利息制限法1条2項 を、単に復活させたのではなく、貸金業者に諸条件を課したうえ 利息制限法超過利息金の受領保持を容認したものですから、例えば、「1条2項が抗弁なら、43条は再抗弁となる」という仮定 論理自体おかしいのでは・・と思っています。
何故なら、43条は、当時1条2項が骨抜き状態の最高裁判決 のときに制定されているからです。
43条の制定により、骨抜き1条2項が、当然のごとく復活する というというような仮定論理に疑問を感じるからです。
4 貸金業法43条の解釈については、制定当時、1条2項が骨抜き 状態のときに制定されている・・・ということを十分踏まえて検討する必要があるのではないかと思っています。
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