契約解除権の発生要件と法律行為の付款

−−−−続編−−−−

2000年4月4日  大阪弁護士会 弁護士 服 部 廣 志

要旨

 民法上「停止条件ないし条件」であると考えられてきたものの、民事訴訟法上の主張、立証責任論を加味する等して検討した場合、法律行為の付款としての「条件」ではなく、期限ないし停止期限と考えるべき事例がある。
 「契約解除権の発生要件は法律行為の付款とはなり得ない」という命題を理解しておく必要がある。


第一 問題の所在

 レポート「契約解除権の発生要件と法律行為の付款?我妻民法総則について」で指摘した問題の所在は、民法等実体法レベルでの解釈と民事訴訟法等の民事手続法における主張、責任論を踏まえた解釈とを総合的に検討していなかったことによるものではないかと思われる。
 前記レポートについて、民法専攻の大学教授及び民事訴訟法専攻の大学助教授の方から頂いた感想等を参考にさせて頂き、検討した結果、上記のように結論づけることとなった。

第二 諸説について

一 山本進一「民事法学辞典」下巻(有斐閣)・1843頁以下、「法定条件」の項には、下記のように記載されている。

1 当事者が、将来その事実が発生補充されたら法律行為の効力が生ずるものと定めることは、本来、そのままでは法律要件の一部が欠けるものとして、無効とされ、あらためて要件完備をまってなされなければならない法律行為を、その要件の完備前に将来の要件の完備を条件に行うものであって、法律の規定する要件事実のあり方そのままを意思表示の内容とするわけではなく、当事者の意思表示によって、法律行為の効力の発生が左右される将来の事実を定めた場合にほかならないから、これは真の意味における条件の一態様であるといえる。
 その例として、「債権の譲渡行為が目的債権の存在することを要件とする」などであるとされる。
2 今、問題としている「履行催告後、履行催告期間内に弁済しない場合には契約を解除する」という方法について、我妻先生らが、これをもって「停止条件付解除の意思表示である」とする論理は、上記山本教授と同一の論理なのかもしれない。
3 山本教授が、真の意味の条件と言われるケースを山本教授が挙示した例で考えると「XはYに対し、平成2005年1月1日時点において、XがZに対し債権を有していたら、右債権をYに譲渡する」というような事例を想定しておられるのかとも推測されるものの、その内容、詳細は不明である。
 山本教授は、他方で、法定条件の例として、「質権設定契約の場合における質物の引き渡し」及び「遺言の場合における、遺言者死亡時の受遺者の生存」等を挙示されていることから、「XはYに対し、XがZに対し債権を有していたら、右債権をYに譲渡する」というような現在時点での法律行為の場合であれば、「債権の存在」はまさに法定条件となり、山本教授の言葉を借りれば「真の意味の条件ではない」こととなるからである。
 右に想定した「XはYに対し、平成2005年1月1日時点において、XがZに対し債権を有していたら、右債権をYに譲渡する」というような事例は、法律行為の付款としての真の意味での条件なのであろうか、疑問である。
 「平成2005年1月1日時点においてXがZに対し債権を有していなかったら、目的物が存在しないこととなるから、債権譲渡の効力が発生しない」だけのことである。債権譲渡の効力の不発生は、意思表示した当事者の効果意思の達成に法律が助力しようとした結果ではないのである。単に、法定条件の結果である。
 このように考えると、「XはYに対し、平成2005年1月1日時点において、XがZに対し債権を有していたら、右債権をYに譲渡する」という法律行為のうち、「XがZに対し債権を有していたら」という部分は単に法定条件を記載しているに過ぎず、当事者の意思表示としては無意味ともいえるものである。意味あるのは、その時点において債権譲渡の効力を発生させるというのではなく、平成2005年1月1日に債権 譲渡の効力を発生させるという意思表示であり、単純に「平成2005年1月1日を停止期限とする」債権譲渡契約であると理解すれば足りるのではなかろうか。
 このような法律行為をして、「条件付法律行為」と称するのは、何らの意味もなく、また法律行為の付款としての条件、期限の本質をあいまいにするものと考えられる。

二 村上博巳著・司法研修所編「立証責任に関する裁判例の総合的研究」
 (法曹会)74頁以下には、下記のとおり記載されている。

1 停止条件付法律行為は、法律行為の成立によって直ちに効力を生ずるのではなくて、条件成就の時からその効力を生じる。
2 停止条件の成就は権利の発生原因であるから、原告において停止条件付であること及び条件が成就したことを立証すべき責任があるとする見解がある。
 この見解によれば、条件部分の立証責任を原告に負わせることの当然の帰結として、無条件の場合にも無条件であることの立証責任を原告に負わせることとなり不当な結果を招く。
3 従って、むしろ停止条件付であることは、権利の発生原因たる法律行為の効果の発生を妨害するもの(抗弁事実)として、相手方(被告)の立証責任に属し、その条件が成就したことは、権利発生妨害の効果に対する再反対効果を生ずる事実(再抗弁事実)として、権利の主張者(原告)の立証責任に属すると解すべきである。
4 これに対し、条件成就の法律効果を妨害する事実は、その条件成就を争う者に立証責任がある。
 賃料不払いを条件とする契約解除における条件成就を妨げる事実の立証責任について、次の下級審判例がある。
 「賃貸借において一旦発生したる賃料債務が弁済その他の事由によりて消滅したること、又はこれが賃料不払いにつき賃借人において履行遅滞の責任なきこと(換言すれば、原告のなしたる右賃料不払いを条件とする契約解除の意思表示において条件成就を妨ぐべき理由)等の事実あるにおいては、賃借人たる被告においてこれが主張かつ立証の責任ありと解すべきところ、被告が主張する1ないし3の抗弁事実については何ら立証をもなさざるをもってこれを認めるに由なく、該抗弁はいずれも採用せず(東京地判昭和12・10・29評論27民訴62)」
5 法律行為に始期を付した時は、例外として始期が到来するまで履行の請求を妨げられるから、始期付であることは、権利の障碍事実としてこれを主張する者、従って債務者側に立証責任がある。
6 これに反して、始期が到来したことは右の権利障碍の効果に対立し、権利発生の法律効果を完全にするから、その立証責任はこれを主張する者、従って債権者側にあると解する。

 この考え方の論旨を敷衍すれば、「停止条件付であることは契約解除権者に立証責任を負わせることとなり不当である」旨論述しながら、換言すれば、「解除権者は無条件の解除の意思表示をすれば足りる」と論述するかのようであるものの、他方、「原告のなしたる右賃料不払いを条件とする契約解除の意思表示に・・・」と論述し、この場合には「賃料不払いを条件とする契約解除の意思表示をしなければならない」旨論述するかのようである。もちろん、後段の趣旨は「条件成就を妨げる示由の主張、立証責任は賃借人にある」との論旨であることから、それ自体は不当ではないものの、「賃料不払いを条件とする契約解除という事例」自体を正当に検討していないようにも思われる。

三 司法研修所民事裁判教官室「増補民事訴訟における要件事実第1巻」259頁以下・「いわゆる停止条件付契約解除の場合」についてには、下記のとおり記載されている。

1 不動産の賃貸人が賃借人に対し、相当期間を定めて延滞賃料の催告をするのと同時に、賃借人が右期間内に延滞賃料を支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をする、というケースは、実務上しばしば見受けられるところであり、このような契約解除の意思表示は、一般に停止条件付契約解除の意思表示と呼ばれている。
 すなわち、契約解除の意思表示に「賃借人が催告期間内に催告金額を支払わないこと」との停止条件が付されているというわけである。
2 ところで、この意思表示が停止条件付契約解除の意思表示であるとするならば、賃貸人が契約解除の効果の発生を主張するには、その意思表示の効果がかかっている停止条件の成就、すなわち「賃借人が催告期間内に催告金額を支払わなかったこと」をも主張立証しなければならないはずである。
 しかし、この場合に限って賃貸人に賃料債務の「不履行」について主張立証責任を負わせようとするのは、通常の催告解除の場合と対比して権衡を失することになるであろうし(前記三(二)参照)、当事者間の立証の負担の公平という立場からも妥当ではない。
3 したがって、この場合においても、賃貸人は「不履行」について主張立証責任を負うものではなく、やはり賃借人が「履行」の事実を主張立証すべきものと解するのが相当である。
 すなわち、催告期間内に催告金額の支払がなかったことが解除権の発生事由ではなく、催告期間内に催告金額の支払があったことが解除権の発生障害事由であると考えるべきである。
4 ところが、そのように考えると、右契約解除の意思表示の具体的内容にそぐわないことになるように思われるが、この点は、右意思表示の内容を合理的に解釈することにより、矛盾なく説明することが可能である。
 右に述べたように、催告金額の不払によって解除権が発生するのではなく、催告金額の支払によって解除権の発生が妨げられると考える以上「催告金額を催告期間内に支払わないときは」という文言は、解除の意思表示をする前提として、このような形では本来不要のものといわなければならないから、賃貸人の意思を合理的に解釈するならば、右契約解除の意思表示の内容は、「催告期間が経過した時に賃貸借契約を解除する。但し、賃借人が右期間内に催告金額を支払ったときはこの限りでない。」 とする趣旨のものであるということになろう。
 このうち但し書きの部分は、期間内の弁済により解除権の発生が妨げられるという法律上当然に生ずる効果と同一の効果を目的とする意思表
示であり、その限りにおいて無意味な意思表示といわざるを得ないから、 結局、合理的に解釈された右意思表示の内容は、「催告期間が経過した時に賃貸借契約を解除する。」旨の一種の停止期限(民法135条の解説一(二)・119頁参照)付契約解除の意思表示であるとみるのが相当である。
5 この場合、「催告期間が経過した時に」というのを一種の停止期限とみると、この点は、賃借人の主張立証責任に属することになるので、賃貸人としては、契約解除の意思表示をしたことのみを主張立証すれば足り、それが停止期限付きであることまで主張立証する必要はないようにみえる。
6 しかし、この契約解除の意思表示は、賃料の催告と同時になされたも
のであることが賃貸人の主張自体から明らかであるため、そのままでは、催告後相当期間経過前の契約解除の意思表示ということになり、その点で無効であるというよりほかない。そこで、賃貸人としては、この意思表示の有効性を基礎づけるため、本来は賃借人側に主張立証責任があるはずの右停止期限をも自ら進んで主張立証しておかなければならないことになるのである。
7 さらに、この場合の「催告期間が経過した時に」というのは、本体である契約解除の意思表示とは別個の附款としての停止期限とみるべきではなく、この種の契約解除の意思表示の本質的部分を構成するものであって、法定条件に類するものと考えるべきであるとする見解もあるであろう。
8 なお、実務上は、この種の契約解除の意思表示につき、「賃貸人が催告期間内に延滞賃料を支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。」と摘示することが多いが、他方、「賃借人が催告期間内に催告金額を弁済(又は弁済の提供を)したこと」をもって抗弁として摘示しているので、実務の大勢も基本的には右と同じ立場に立つものと思われる。
9 そこで、賃貸人甲が賃借人乙に対し、この種の契約解除に基づいて賃貸不動産の明渡しを請求するには、甲は、請求原因として、
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イ 甲と乙とが賃貸借契約を締結したこと
ロ 甲が乙に右賃貸借契約に基づいて目的不動産を引き渡したこと
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ハ 甲が乙に対し特定期間分の賃料の支払いを求める旨の催告をしたこと
二 甲が乙に対し、右ハの催告と同時に、一定期間が経過した時に右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと
ホ 右の一定期間が経過したことを主張立証すればよく、「乙が右の一定期間内に賃料債務を弁済しなかったこと」まで主張立証する必要はない。
 なお、右ハの催告については、催告後相当期間が経過すれば解除権が発生し、催告期間に特に意味はないから、期間を付した旨の主張立証は不要である。
 また、右二の一定期間は、前述の催告期間と一致し、相当期間以上の期間である。
 これに対し、乙は、抗弁として、乙が甲に右の一定期間経過前に右ハの特定期間分の賃料債務の弁済の提供をしたことを主張立証することができる。

 この論旨のうち、4の論旨は停止期限説に立脚しているものである。
 また6の論旨は、「契約解除の意思表示」を「文字どおり、解除権の行使」にするために必要とされるのである。
 ただ、7の論旨のうちの「法定条件に類するもの」という表現が不可解である。
 「催告期間の経過」ということは、「履行の催告の事実」とともに、実体法上の契約解除権発生要件のもう一つの要件である「相当期間の経過」を含むのである。その意味では、「契約解除権の発生要件」のひとつなのである。催告期間が法律上要求されている相当期間に満たない場合には意味がない。従って、「法律上意味のある催告期間の経過」とは、「相当期間の経過」と「契約解除の意思表示を行う始期、停止期限の到来」なのである。
 換言すれば、契約解除権の発生要件の一つ、即ち法定条件のひとつ、を含み、かつ契約解除の意思表示に停止期限を付しているに過ぎないものなのである。
 7のような論旨は、折角、本件のような場合は「停止期限付の契約解除の意思表示である」旨正当な考え方に立脚したにもかかわらず、その内容の分析が不十分であるがため、再び「法定条件に類するもの」というような誤った評価をし、結局は「停止条件説にくみするような誤解」をも招来しかねないものである。
  前記論旨9においても、前記のように「法律上意味のある催告期間の経過とは、相当期間の経過と契約解除の意思表示を行う始期、停止期限の到来」というような分析が不十分なために、「催告後相当期間が経過すれば解除権が発生し、催告期間に特に意味はないから、期間を付した旨の主張立証は不要である」というような不当な論旨を展開してしまっているのである。

 民法541条に従えば、「履行催告後、相当期間が経過すれば契約解除権が発生すること」については異論はなかろうと思われるものの、契約解除権行使の前提として必要とされる民法541条所定の「相当の期間を定めて催告」については「相手方に契約解除という法律効果の発生を防止する機会を付与をしようとするもの」であることから、「期間を明示することが必要」と解するべきであり、このように解釈することが契約解除権という制度の趣旨にも合致するものと考えられる。

 期限の定めなき消費貸借契約の場合における返還時期については、民法591条は「当事者が返還時期を定めざりしときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をなすことを得」と定め、「返還催告で期間を明示しない場合でも、支払い準備に必要な相当期間が経過すれば、借り主は返還を拒否できない」とされている(大判昭和5年1月29日民集9?97)。

 しかしながら、本件のような契約解除の場合にも同様の論理が妥当するとの見解もあるが不当である。前記の「催告後相当期間が経過すれば解除権が発生し、催告期間に特に意味はないから、期間を付した旨の主張立証は不要である」というような論旨は、期限の定めなき消費貸借契約の場合の催告と契約解除の場合の催告の意味と機能を同様の論理で考えようとすることから生じるものと推測している。
 消費貸借契約の場合の民法591条は「返還の準備期間」を付与せんとする趣旨であり、その準備期間が経過すれば「返還時期が到来する」のは当然である。他方、民法541条の契約解除の前提としての催告は「相当期間内の履行を催告し、その相当期間が経過すれば契約解除権を付与する」という制度である。債務者に最後の機会を付与するという制度であり、債務者にそのような不利益を加える最後の時がいつ到来するのかというようなことを、換言すれば、その期間到来時期の判断についての危険負担を債務者に課すのは不当である。債権者にその期間を明示させるのが契約解除という制度の趣旨に合致するもので あり、現に、実務はそのような前提で処理されるのが大半である。

 このように契約解除の意思表示については、「期間を明示的に定めた履行の催告」が必要と考えるべきであり、またこれは前記のとおり、 「契約解除する、という意思表示」を「解除権の行使」にするために不可欠な停止期限でもあるものなのである。

 当事者の効果意思としては、「契約解除権が発生するに足りる期間、即ち相当期間が経過した時に契約解除の意思表示をする。その契約解除権が発生するに足りる期間、即ち相当期間が経過した時とは、右の催告期間と考えているから、右催告期間の経過した時に契約を解除する」という内容のものなのである。

 前記のような「催告期間に意味がない」という発想に立てば、「履行催告の事実」と「相当期間経過した時に契約解除する」という事実を、挙示することとなる。
 しかしながら、当事者が明示した催告期間について、「相当期間の経過」と「その余の期間の経過」というように分断し、前者にのみ意味があるとすることは、技巧に走り過ぎである。当事者の意思は、自らが付した催告期間を、このように分断するものではない。

 法律が、「債権者に履行遅滞にある債務者に相当期間内の履行の催告をした場合に契約の解除を認める」という方法を採用しているのは、前記のとおり、契約の解除という法律上の効果を認める前提として、債権者、債務者間の利害の調整を図ったものである。
 契約解除というような単独行為により法律効果を認める場合には可及的に相手方を不安定な地位に陥れることは避けるべきであり、また契約解除をしようとする者に対し、法律が認める相当期間を満つる期間をもって履行の催告をすることを強いても特段の不利益を課するものとも思われないことから、「契約解除権を行使しようとする者は、その契約解除という意思表示の行使時期を明確に相手方に開示したうえ解除の意思表示をするべきである」との立場にたち、さらに「期限ないし期限の経過の主張、立証責任は、期限の存在ないし期限の経過により利益を受ける者に負担させるべし」という前提に立てば、「履行の催告とともに契約解除の意思表示をする」者は、「契約解除する、という意思表示」を「解除権の行使」にするために不可欠な停止期限及びその期限の到来(期間の経過)は、自ら主張、立証すべきではなかろうか。

 このような分析は、催告期間が相当期間に満たなかった場合の法律効果発生の差異として現れる。
 履行催告期間が法律が要求する相当期間に満たなかった場合には、このような契約解除の意思表示は「解除権の行使」とは認められず、契約解除の効果は発生しないのである。

 ただ、実務上、このような考え方を採用したとしても、催告期間が経過し、なお法律が要求する相当期間まで経過した場合には、「契約解除の法的効果を認める」のが一般であろうと考えられ、本レポートの考え方によれば、このような一般的と推測され得る結論を得ることができない という問題が残るようにも思われる。何故なら、前記のような考え方を採用した場合には、理論的には、再度、相当期間の履行催告期間を明示したうえ契約解除の意思表示をする必要があるということになるからである。

 しかしながら、契約解除の意思表示をする者は、前記のような契約解除制度の趣旨及び債権者・債務者間の利害の調整、負担の公平というような観点から、催告期間の明示が求められるものとすれば、一旦債権者が相当な期間と判断してなした履行催告期間が、「一見して明らかに法律が要求する相当期間に満たない」と判断される場合を除き、催告期間が経過し、なお法律が要求する相当期間まで経過した場合には、その時、即ち履行催告期間が相当期間に満たなかった場合には、相当期間が経過した時に、予備的な停止期限付の契約解除の意思表示をしているものと合理的に意思解釈をなし、またこのような予備的な解除の意思表示は許されるものと解することも可能であると思われる。 
   
 他方、「履行催告期間が一見して明らかに法律が要求する相当期間に満たない」と判断されるような非常識な履行催告期間を定めた場合には、改めて、相当な期間を履行催告期間として履行催告しなければならないものと思われる。

第三 結論

一 以上のとおり、本レポートの主題に関する限り、停止条件説は不当であり、停止期限という考え方が実務的、理論的には正当である。
 従って、やはり、「我妻民法総則記載は訂正されるべきである」 との結論は変わらないこととなった。
 また、司法研修所民事裁判教官室の「法定条件類似のもの」という見解は、前記のとおり、法律行為の付款としての条件及び期限の本質や機能を誤解させるものであり、賛成できない。
 正当に法律行為の付款を理解するためには「契約解除権の発生要件は法律行為の付款たり得ない」という命題を理解する必要があるのではないかと推測している。
二 本レポートを作成しているうちに、「契約解除の前提としての履行催告」の場合と「期限の定めなき消費貸借契約の場合における履行催告」とでは、その意味と機能が異なり、「契約解除の前提としての履行催告の場合には、催告期間の明示が必要である」との論旨に到達してしまった。
 この部分については、検討不足である。本レポートを作成しているうちに筆が走ってしまった、というのが正直なところである。
 現実の実務を前提とした立論であり、このような論旨が正当か否かは、学者その他の批判に委ねたいと思う。

以  上