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「ボクシング理論・試論」
(「対抗言論の理論」補強修正試論)

2000年1月6日 大阪弁護士会所属 弁護士 服部 廣志

要旨

ニフティ事件東京地裁判決を契機として議論されている「パソ コン通信フォーラム等の場」における名誉毀損発言等について、高橋東大教授の提唱する「対抗言論の理論」をもとに、その民事、刑事責任論への取り込みの是非等を理論的に考察したものである。

現在の社会通念の下では「対抗言論の理論」による違法性阻却 ないし減殺という理論の採用は困難であるものの、以下のような 要件が具備された「名誉毀損的発言等」について、このような「場の特質」と「このような場が生む特殊な人間心理」等を違法性理論の中に取込み違法性阻却ないし減殺を肯定することは可能であると結論づけている。

第一 本レポートの趣旨

一 筆者が参加しているインターネット弁護士協議会から、同協議会が主宰しているメーリングリスト上で、筆者が試論として述べた「ボクシング理論・試論」について、それをまとめて公表されたいとの要請を受けた。

二 ニフティ事件に関する東京地裁平成9年5月26日判決(判例時報1610号22頁以下)を契機として、「パソコン通信等の場」における名誉毀損ないし侮辱による不法行為の成否等が問題とされ関心を呼び起こしているからであり、「このような?場?における名誉毀損的発言等」について、他の場における発言とは、「異なった法的評価が可能か否か」をテーマとした「ボクシング理論・試論」を公表せしめ、本件判決が内包する諸問題について、より多くの人の知恵と意見を結集せしめて、より妥当な理論を探ろうとするものである。

本レポートは、このような目的のための「議論のたたき台」として、公表されるものである。正確性、緻密性よりも、「すみやかに議論の材料を提供する」という趣旨である。従って、本件に関する諸論説の検討等の作業はなし得ていないが、それで足りるものと考えている。

第二 問題の所在

一 ニフティ事件判決においては、主としてプロバイダー及びプロバイダーからフォーラムの運営・管理等を任されていたシステムオペレーター(シスオペ)の責任が重大関心事として取り上げられ、右判決についての控訴審の判決に興味と関心が持たれているわけであるが、これらプロバイターないしシスオペの責任如何という問題の前提として、このような「パソコン通信によるフォーラムないしインターネットメーリングリスト等」というような場における「名誉毀損ないし侮辱発言」をどのように考えるのかということが、右判決の前提となっている。

本レポートは、この前提問題のみを取り上げるものである。

二 右事件の被告の一人は「・・・・・・ネットワーク上に社会的評価を低下させるおそれがある発言が書き込まれたとしても、これに対しては容易に反論して社会的評価の回復を図ることが可能である。また、書き込まれた発言を読む他の一般会員は、当該発言自体が直ちに社会的評価に影響を及ぼすものとは考えず、むしろ、反論、批判こそが重大関心事であって、それらの反論、批判をも考慮して、当該発言の正確を判断するものである。それらの事情は、会員相互で論争しながら現代社会の問題や思想的課題に取り組むことを目的とした本件フォーラムのような場合においては、最も顕著に表れるものである。さらに、本件各発言は、現代社会の思想を扱う極めて特徴あるフォーラムである本件フォーラムに書き込まれたものである」旨主張し、「・・・被告が行った本件各発言は、いずれも法が名誉毀損として類型的に予定した程度の違法性は有しない」と反論したのである。

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インターネット法律協議会