人間に耳あり

ILC記念病院、307号室

    長男(冷児)
       どうも、おふくろ、ダメみたいやなぁ
       車に跳ね飛ばされ、もう3週間やもなぁ
       ほら、全く意識ないし・・・・・
       医者も、長くて1ケ月って言ってるで・・
       嫁はんも、もう疲れたって、言ってるわ
       ・・・・・内緒やけど・・・・ 

    長女(冷子)

       兄さん・・・・
       お母さんの財産って、どれくらいあるの???
       ケチで、小金ためてたみたいだけど・・・・

    長男

       う−−ん
       そやなぁ・・・・6000万円くらいはあるで・・・
       相続人は、おまえと弟の3人やから、1人2000万円くらいかなぁ
       もう直ぐ死ぬで・・・・!!

    長女

       シ−−−−−
       弟、来たよ

    弟(優児)

       やあ、兄さん、姉さん
       母さん、どう、心配やなぁ
       母さんのことを、くれぐれも頼むよ、と言って死んでいった父さんの顔が浮かぶよね。  母さん、苦労したからねぇ−−−−−−。
       もう一度、あの元気な母さんの顔見たいよね−−
       グスン!!



    それから、半年後

        やあ、優児、ありがとうね
        毎日、来てくれて・・・・
        仕事、大丈夫かい

    優児

        母さん、大丈夫さ
        元気になって、よかったね。一時はもうダメかと思ったんだよ
        母さんさえ、元気でいてくれたら、何にもいらないよ!!
        本当だよ・・・!!



    後日談

       その数年後、母は旅立ち、母の遺言書が開封された。



    遺言書
        私の全財産は、私の次男、優児に相続させる。
            平成12年4月26日
                悲  母  眠  子  (印)



     何故なの??
     母は、ILC記念病院の病床での会話を聞いていたみたい??
     意識は、なかったはずなのに!!

     人間の臓器の中で、最後まで機能するのは、耳と声を聞き取る脳細胞である。
     銃弾に倒れた戦友を抱きしめ「死ぬな!!」、「頑張れ!!」と絶叫するシーンが映画等で放映されている。
     この意味−を−知らない人−が多い。
     死にかけた脳細胞は、「死ぬな!!」、「頑張れ!!」という言葉で、停止しかけた機能を復帰させ、蘇るのである。
     機能を停止しかけた人間の細胞は、親しい聞き覚えのある人の言葉により、機能停止をやめ、生きようとするのである。
     だから、みんな叫ぶ!!  死ぬな!! 頑張れ!!・・・と
     意識がないと見られる人間も、その意識程度より、外界から受ける鼓膜の振動は受信し、脳幹細胞は動いている場合があるのである。
     意識を失っていると見られる人間も、「声だけは聞こえている場合がある」のである。
     だから、みんな叫ぶ−−頑張れ、死ぬな!!・・と −−−−−−
     決して、意識を喪失している人の傍らで言ってはいけない−−−「もう、あかんで・・・!」と
     言われた人間は−微動ダニしていなくても−その言葉を脳幹で聞いている!!