水野氏がたびたび顔をだしていた大阪北新地のクラブは、 突然水野氏が顔を見せなくなったことから不信に思っていたところ、水野氏の友人金子氏から、水野氏倒産の話を聞かされた。
 水野氏の飲食代金が150万円も未払いとなっていたことから、クラブの浅 野ママは、水野氏に何度も支払ってくれるよう催促するとともに、2ケ月に1度の割合で、水野氏に請求書を郵送送付していた。
 水野氏が顔を見せなくなってから、約1年10月が経過したころ、浅野ママにバッタリ会った水野氏はママに「あれはもう時効だから払わないよ」と言ったところ、ママは「何言っているのよ、2ヶ月に1度請求書を送付しているから、時効になんかならないのよ!」と反論した。

 いずれが正しいか・・・・?

飲食代金の時効は1年だから、水野氏が正しい。
請求書の送付により時効は中断しているから、浅野ママが正しい。
 多くの人が、勘違いしている1事例です。
 1年の時効期間が満了するまでに「請求する」と、その日から6ケ月以内に訴訟等の所定の法的手続きをとれば、その法的手続きをとった日が、本来の1年の時効期間経過後であっても、時効中断の効力は認められます。
 事例の場合、ママが1年経過前に送付した最後の請求書がついた日から6ケ月が経過していると考えられます。1年10ケ月経過しているのだから・・・・。

 従って、正解はイ。



後日談
     実は水野氏は、浅野ママの姪でかつ共同経営者で、お店のナンバーワンでもある智紀子ちゃんと、ママには内緒で、店外デートを重ねていた。
     そして、飲みに行かなくなってから約11ケ月くらい経過したある日、大阪桜宮インター横のラブホテル「陽気な五右衛門」にて、「神事」に及んだ際、

    水野氏/
    (浅野ママからの飲食代金の請求書二、三通を示しながら)、「浅野ママに悪いから、これ10万円だけ渡しておいて・・・。 ハイ・・。

    智紀子/
     でも・・・なんて言って渡すの・・?
     こうして会っていることはママには内緒よ。ママから、お客さんとは、絶対、こんな関係になったらダメって言われているのに!!

    水野氏/  大丈夫さ。バッタリ、道であったことにしておけば・・・!!

    智紀子/  あっ! そうね、そう言って渡すわ・・!!



    智紀子/
     ママ。昨日、バッタリと水野さんに会ったのよ。そしたら、これ、ママに渡しておいてって、言われて預かってきたの。10万円あるわ・・。

    浅野ママ/
     エっ ? ふ−−ん?
     智紀子、まさか、水野さんと、店外で会ったりしているんじゃないでしょうね?
     客と関係など持ったら、絶対ダメよ!
     お客が口説いてきたら・・・そうねぇ−「水野さんって、いい人ね!」って言いながら、じらすのよ!!その気がある振りして・・・・またね・・・またね・・・と言いながら、客を引っ張るのよ!! わかった?!  男なんて馬鹿だから、その気がある振りすると、すぐ寄ってくるから。わかった!!



     債務者が自己の債務を承認すると、時効の中断ないし時効援用権を喪失することとなる。飲食代金の一部を支払っていた事実があるので、結果的には浅野ママが正しいことととなった・・・・。
                               (金子鍋子・五右衛門合作)



完結編

    それから、10ケ月後の西暦2001年2月31日
    ILC民事特別法廷

    村井剛裁判官
     原告浅野ママの被告水野に対する飲食代金請求事件について、判決を言い渡す。
    1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。

    (時効中断してたん、ちゃうん? なんで・・・??)

    判決理由
    1 浅野ママは「本件債務は継続的取引に基づく債務であり、その一部を弁済しているのだから、 残債務全額について時効中断の効力を認めるべきである」と主張する(東京高裁昭和38年5月31判決・同41年10月27日判決等)。

    2 しかしながら、水野氏の本件飲食店における飲食態様は、1人で飲食する場合、数人で飲食する場合等まちまちであり、さらに複数で飲食した場合において必ずしも水野氏がその飲食代金を支払うとは限らず、一緒に飲食した他の者が支払うといった場合も珍しくないものであり、本件のような場合、浅野ママが挙示する事案とは事案を異にするものと考える。
      加えて、本来、飲食代金債務の支払い責任は、飲食店との関係においては、一緒に飲食した者全員がこれを連帯して支払うべき性質のものであり、特定の一人が支払いをしたとしても、それは当該支払い者が右連帯債務の支払いをしたに過ぎないものと評価すべきものである。
      このように考えると、水野氏の浅野ママに対する飲食代金債務は、「継続的取引に基づく債務」というより、各飲食日ごとの可分債務であり、「多数回にわたる飲食代金債務の集合」と評価すべきである。

    3 加えて、水野氏は浅野ママが送付した請求書3枚分の請求金額合計10万円を支払ったことが認められるが、その余の請求書分について、支払い義務があることを承認したと認めるべき証拠はない(大審院昭和16年2月29日判決)

    4 よって、主文のとおり判決する。

    5 なお、本判決に不服であれば、ILC高等裁判所に控訴することができます。
      ただ、ILC高等裁判所には、小倉賢一、佐々木秀夫という、ひとこと弁明すると機関銃のように反論弾を打つ裁判官がいるので言動に注意するように。

                   −− 閉廷 −−

    水野/
     やった−!!

    浅野ママ/
     け−−!! 法律が、なんじゃ!!
     新地に飲みにきたんなら、金ぐらい払え!!
     新地では、「金のない男は、首のない男」って、いうんじゃ!!

    (チラっ、あ−−!!)
     あ〜〜ら、金森廣志社長さんでいらっしゃいません!
     浅野でございます。新地に出てらしたの〜?
       ウ〜〜ン、お店にも、寄ってくださいな〜。是非、是非〜〜
     えっ 寄ってくださるの??
     嬉しい・・・・・さっ、どうぞ、どうぞ!! お客様よ〜〜!!

     −完−



更正決定

     判決に明白な書き漏らしがあったので、次のとおり、更正する。

    1 鍋子代理人は、時効中断の理由として「債務の一部の弁済があった」旨主張している。
    2 広義の意味では「債務の一部弁済の有無」が争点であるので、誤りとは言えないものの、正確には「単純な債務の一部弁済の有無」ではない。単純な債務の一部の弁済がなされた場合には、残債務について時効の中断が認められることは明らかであり、議論の余地はないからである。
    3 本件は、そのような単純な事案ではなく、「継続的取引債務の一部弁済」に該当するか否か、というヒジョ−−−にアカデミックな論点なのである。
    4 このようなアカデミッ−−−−クな論点を、単純化した鍋子代理人の言動は、看過することはできない。
    5 よって、鍋子代理人に対しては「死刑」を宣告すべきところではあるが、その性格、殊勝かつ積極性が認められるので、西暦2000年の司法試験については、格別に恩典を与え、無試験で合格とする。