税務雑額
 
目次
 
取引相場のない株式の評価 
・負担付き遺贈と課税
・税理士業務譲渡対価と課税
・ 通算グループ内の法人の間の取引の損益調整
・ インボイスなしによる80%仮払い消費税処理
 
 
 
取引相場のない株式の評価
 
元国税調査官・税理士 松嶋洋
1日前 ·
国税速報6823より。
 
取引相場のない株式の評価については、直前期末の指標を使うという直前期末基準で計算することが通例。しかし、これは例外的な方法であり、本来は課税時期の現状で仮決算を行う必要がある。直前期末基準は、直前期末〜課税時期までに著しい変動がないため評価額に影響が少ない場合に使える方法。
影響が少ないとは何か、その解釈は困ったことにほとんど知られていない。しかし、この記事の解説によると、先日の裁決例において、直前期末基準がNGとされたものがある模様。この事例、税務調査で過去の売上計上漏れと、元代表者の横領が発見された模様で、こうなると、売掛金が正しくない、横領に伴う損害賠償請求権が計上されていない、という点で直前期末の指標を使うのは正しい評価を計算することができないとされている。
極端な事例なので、実務ではあまり参考にならないように見えるが、法人税の税務調査が株取引にも影響を及ぼすという点では非常に重要。なぜなら、株を売る前に評価して、その評価額に基づいて取引した後、税務調査は行われるから。そうなると、税務調査で多額の追徴が発生するケースは、後発的に低廉譲渡と認定される恐れがある訳だ。
以上を踏まえると、課税時期の仮決算はコストがかかるので誰もやらないが、直前期末でもデューデリジェンス的なことはしておいた方がよさそう。もちろん、金額にもよるので、数千円程度の株価なら影響は少ないだろうが、数十万などになると見過ごせない状況になる。
もっと言えば、相続時精算課税の適用者は要注意。親が子に譲渡で株を渡すとすれば、相続時精算課税は時効がないためこの問題のリスクが未来永劫続くことになる。
 
 
 
・負担付き遺贈と課税
 元国税調査官・税理士 松嶋洋
 税務通信3821より。
負担付き贈与
 負担付「贈与」については、贈与者に譲渡所得課税がなされる。贈与者が負担額を対価に、資産を譲渡したという整理になるから。なお、
 受贈者は負担額を控除した評価額で贈与税が課税される。
 
 しかし、
 負担付「遺贈」については、必ずしもこのような整理にはならないと。
 解説によると、下記のような理由らしい。
・ 負担付遺贈の場合には、死亡により引き継がれる債務が対価になるはず
・ 債務については、それが可分債務の場合、相続人で均等に相続されることになる
・ 負担付遺贈により債務を負うことになった受遺者は、一旦均等に相続された他の相続人の負担を引き受けることになる
・ 譲渡所得課税するなら、譲渡する資産と、その対価である債務の軽減に相当因果関係が必要
・ 他の相続人から債務を引き継ぐため、この相当因果関係はなく、譲渡所得の対象にはならない
 こんな理屈らしいが。
 負担付遺贈は譲渡所得、としか考えていなかったので驚くばかり。
ただ、
 上記の理屈が正しいとなると、各相続人はいったん相続して債務がなくなるので、相続税は債務控除、そしてその後の債務がなくなるのでみなし贈与の贈与税、といった課税関係になると思うのだが。当然ながら、確実でないとして債務控除は否認される話なので、この理屈は首肯しがたい。
おそらく、
 実務もほとんどのケースで譲渡所得課税で終わっているのではないか。国税もこのような指導はしていないと思うし、被相続人の準確定でも申告させているはずと思うのだが...
 この記事が正しいなら、負担付遺贈の譲渡所得の更正の請求なども必要になってくる話なので、早めに結論を出してほしいと思う。
 
 
・税理士業務譲渡対価と課税
 
平成25年10月10日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、後記2のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3の1及び2に記載のとおりであるから、これらを引用する。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 本件業務譲渡の対価を雑所得とした原判決の認定は、その説示するところに照らし相当と認めることができる。
(2) 控訴人は、税理士業務の一般的、抽象的な性質論に拘泥することなく、本件における個別事情を考慮して、総合的に判断すべきと主張する。
 そこで検討するに、前記認定のとおり、本件では、高齢となった控訴人が、税理士業務を廃業するに当たって、これまで築き上げてきた顧問先を有償で譲渡しようと考えたものであること、本件業務譲渡の対価については、顧問先の年間顧問料等を基に算定され、少なくとも2年間、顧問契約が継続されることを見込んで、平成24年3月31日までにおいて、顧問先側の事情による契約の解除等により、顧問先からの入金が見込めなかったときには、当該顧問先の年間顧問料及び決算料相当額を減額するとされていたこと、本件承継法人は、本件業務譲渡の対価を顧問先紹介に係る市場開発費として経理処理していることや、本件承継法人は、本件業務譲渡により承継することとなった顧問先に対して税理士業務を提供するに当たり、各顧問先との間で新たに顧問契約を締結していること(甲8、弁論の全趣旨)、控訴人が平成22年4月1日をもって本件承継法人に期間を3年とする社員税理士として加入しているのは、控訴人の顧問先が違和感を覚えることなく、本件承継法人を委託先として受け入れることができるように、橋渡しをする役割を果たすことが求められたものであること(甲10、弁論の全趣旨)などからすると、本件業務譲渡の実態に照らしても、顧問先の紹介ないしあっせんとみるべきであり、その対価を、譲渡所得と認めることはできないというべきである。
(3) 控訴人は、本件業務譲渡契約に基づく対価が、Fに支払った報酬額(350万円)と比較して格段に高いと指摘する。しかし、前記対価は、本件承継法人が、控訴人から紹介を受けた顧問先との顧問契約が相当年数継続されるものと見込み、それから得られる収益を考慮して算定したものであるから、紹介ないしあっせん料とみて不自然ではない。
第4 結論
よって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官 田村 幸一
裁判官 橋 光雄
 
 
 
 
 
・ 通算グループ内の法人の間の取引の損益調整
 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/group_faq/46.htm
 
 
・ インボイスなしによる80%仮払い消費税処理
 
 雑損失で処理する仕訳例
 現行の会計システムを変更せず、期末等に改めて仕訳するなら雑損失を使う。
 該当費用に上乗せする仕訳とは異なり、一旦現行どおりに計上する方法を取る。
 
 期末等に改めて「雑損失」という形で仕入税額控除が受けられない20円分を仕訳する。
 
【取引時点】
(借方)                 貸方)
消耗品費    1,000円           現金    1,100円
仮払消費税等   100円
【期末等】
雑損失       20円     仮払消費税等  20円
 
 雑損失で処理する場合、現行の会計システムを変更する必要がない
 再度仕訳処理をしなければならないため、かえって負担になる