Winny刑事事件の問題解決のために
        教唆的幇助意思の理論
 
2004/5/31
                  大阪弁護士会所属
                     弁護士 服 部 廣 志
 
目次
第一 Winny京都地裁・刑事訴訟遠望
1 2004/ 5/31日=公訴提起=起訴
2 2004/ 6/1日=保釈申請・保釈決定=検察・準抗告=準抗告却下
3 2004/ 6/2日 今後
4 2004/ 6/5日 公訴事実は何か
5 2004/ 6/23日 第1回公判期日の指定
6 2004/ 8/13日 Winny弁護団弁護士Blog
7 2004/ 8/15日無罪主張の論理の正否
8 2004/ 8/16日検察・正犯事件について訴因変更請求
9 2004/ 8/18日Winny事件、弁護士Blogと検察官
10 2004/ 8/25日Winny事件に関する弁護士らの意見
11 2004/ 8/28日Winny事件に関する各種議論
12 2004/ 8/31日明日の公判
13 2004/ 9/1日第1回公判
14 2004/ 9/24日第2回公判
15 2005/19124日・2/4日第7/8回公判
 
第二 問題解決のために
  Winny事件における、幇助意思と因果関係=行為類型
   (教唆的幇助意思の理論
 
第三 問題解決のために−その他の理論
 
第四 自動送信可能化権について
   ・・ もうひとつの問題・・
 
第五 間接幇助など
   ・・ Winny事件の波紋
 
第六 Winnyシンポなど遠望
 
第七 国外
1 米国でも「Winny型」逮捕者出るか?上院で法案提出
2 米連邦高裁判決
3 米連邦最高裁ベータマックス裁判判決
 
第一 Winny京都地裁・刑事訴訟遠望
 
2004/ 5/31日=公訴提起=起訴
1 京都地方検察庁の記者会見の報道を見ると、従来の幇助理論の適用を主張しているに過ぎないように感じられる。
  仮に、そうだとしたら、多くのIT技術者ら国民の不安に正面から答えていないこととなり、検察権の行使として問題がある。
2 弁護団の見解も必ずしも明快ではない。テレビ報道によれば、弁護団の一人が「いいものを作って犯罪になるわけがない」旨述べていた。このような刑法理論の裏付けのない国民的感想のようなものを述べてよし、とするのは疑問でもある。
3 現段階では、検察、弁護の双方とも、問題を抱えているように思える。
 
2004/ 6/1日=保釈申請・保釈決定=検察・準抗告
1 弁護側の保釈申請を裁判官が認めたところ、検察は不服申立=準抗告をしたらしい。
2 本件のような事案で、保釈を認めない理由はない。
  さて、京都地裁は、どう判断するか。
3 京都地裁は準抗告を却下し、保釈された。
 
2004/ 6/2日 今後
1 さて、今後は、第1回公判での攻防とそれについての攻防準備になる。
2 第一回公判期日において、弁護側は、公訴事実に対し、どう対応するのだろうか?
 イ 無罪主張は予想されるが、その無罪の理由をどのように主張するのだろうか。
 ロ 公訴事実の記載の内容が、従来の幇助理論の延長上のものであったとしたら、「多くのIT技術者が不安を持つような、通常世間であるような事例」を挙示したうえ、「これらも犯罪となるのか」と求釈明するのだろうか。 
 ハ 弁護側がロ記載のような求釈明をした場合、検察はどう対応するのだろうか。
 二 一般論として、検察は、公訴事実に対する弁護側の求釈明に対し、「釈明する必要はない」と門前払いの対応をする場合が多いが、裁判所は、どのような訴訟指揮をするのだろうか。  
 
2004/ 6/5日 公訴事実は何か
1 Winny開発者逮捕、起訴が大きな社会的反響を呼び起こし、支援金もそれなりに集めたのだから、被告人の身上経歴部分などプライバシーに関連する部分は除くとしても、弁護団に、(勿論被告人の同意を前提に)本件公訴事実の内容をオープンにして欲しいと期待するのは私だけなのでしょうか。
2 公訴事実の記載内容により、検察が逮捕、起訴に踏み切ったポイントが推測できるような気がするし、本件についての誤解や曲解を排除し、問題点を正確に把握できるようになると思うけれど、、、。
3 巷では、あたかも、「Winny制作」が「幇助の認定をされたかのよう」にも言われている。このような、正確に事実関係を把握して対処しようという発想が欠落した論調は、この問題の焦点を曖昧にし、かえって、Winnyのような高度IT技術の進化、発展を阻害するようにも思えるが、、、。
 Winnyとか、ITに関する知識が不十分なので、、よくわかりませんが、、、。
4 著作権法違反について刑罰を加えることは、著作権法自体が、立法府=業界=複合体の政策=業界保護的要素が濃厚な法律なので、疑問であるということは理解できますが、、。
 
2004/ 6/23日 第1回公判期日
1 第1回公判期日が9月1日午前10時と指定されたらしい。
2 本日、現在に至るも、「不当逮捕」という主張の「法律的論拠の具体的内容」が見えてこない。
 
2004/ 8/13日 Winny弁護団弁護士Blog
1 Winny弁護団弁護士のBlogが開設されている。
2 この弁護士が、公判にどう対処しょうとしているのか不明であるが、「何かしら、その言動等、少しピントがずれている」ような気がする。
3 民事、刑事を問わず、ときどき、弁護士のミスリード現象を見ることがある。
4 私の勘違いであって欲しい、と念願している。
 
2004/ 8/15無罪主張の論理
1 Winny事件無罪主張の刑法論理は、後記第二記載のように、破壊活動防止法所定の「せん動の罪」と「教唆、幇助の罪」との差違に着目し、本件事件は「せん動」に止まるものであり、「幇助行為」は存在しない、というものなのかもしれない。
2 しかし、「せん動の行為」と「教唆、幇助の行為」との法的差違が、
イ 正犯の特定性の認識、認容の欠落と
ロ 相当因果関係の欠落
であるとしたら、、、
3 本件の場合、相当因果関係は立証されそうなので、上記ロの論理は消失するかも。
4 最後に残る議論は、上記イの点である。
  刑法上、故意の認識、認容に際し、客体の錯誤、打撃の錯誤、因果関係の錯誤等は故意責任の本質である「直接的な反規範的人格態度」の存否という観点からみれば、重要な意味を持たないと考えるのが現在の多くの考え方である。
 本件にできるだけ、類似(類似とはいえないが)させようとしたとして、行為者Pが「Xが正犯実行しょうとしていると誤解して、真実であるYの正犯実行の幇助をした」としても、Pの錯誤は故意責任の肯定にとって重要ではないとされるでしょう。同様に、行為者Pが「X及びYらが正犯実行しょうとしていると誤解して、A及びBらの正犯実行を幇助した」としても、Pの錯誤に重要性は認められず、幇助犯の成立に支障はないでしょう。
 行為者Pが、群衆のなかにいる「Xに正犯教唆しょうとして教唆行為をしたところ、Xは正犯実行に至らなかったものの、群衆のなかのYが正犯実行にい至った」とした場合、上記2事例と比較し、故意責任を肯定することについて、差違を認めるべきかと問うたら、答えはノーとなるのではないだろうか。故意責任の本質論から考えて区別する必要性や論理的蓋然性も認められないからである。
 では、行為者Pが、群衆に向かって、存在しないQという仮想の人間に呼びかけて「正犯実行の教唆、幇助となり得る行為」をしたとして、Qは仮想の人間であるから、Qによる正犯実行ということはあり得ないが、群衆のなかにいる実在するAが正犯実行に至った場合、行為者Pは「私は実在しないQを教唆、幇助したのです。実在するAを教唆、幇助する意思はなかったので、責任はありません。無罪です。」と主張したとして、このような主張が認められれるだろうか。故意責任論や刑法の常識からして、このような無罪主張は認められないのではないでしょうか。
 それでは、行為者Pが、群衆に向かって、特定の人間を意識せず、「正犯実行の教唆、幇助となり得る行為」をし、群衆のなかの一人が正犯実行したとしはた場合どうなるのか。これが本件の問題である。上記までの仮定問題に対する解答が正しいものとしたら、、、「特定の人間の意識は重要ではない」ということとなり、本件も幇助、教唆の成立認定になんらの支障もない、ということになるのではないでしょうか。
 
2004/ 8/16日検察・正犯事件について訴因変更請求
1 Winny事件の正犯の弁護人弁護士のBlogの記載によれば、検察官は、訴因変更請求をしたらしい。正犯についての訴因変更は、従犯、幇助の罪で起訴されているWinny事件にも関係するでしょう。
2 訴因の内容がどうなるかは、裁判所の許可判断による。
 
2004/ 8/18日Winny事件、弁護士Blogと検察官
1 Winny事件に関連して、弁護団弁護士Blogその他のBlogに現職検察官が仮名で書き込みをし、議論に参加していたことが波紋をよんでいるよう。
2 特別、問題視するようなことは微塵もない。
  いろんな職業の人が、いろんな観点から意見交換をすればいい。
3 「弁護側の手の内を探る」なんて、、うがった見方もあるようですが、、そんな小手先のことで刑事事件の帰趨は決まらない。「手の内を隠す」というような、、そんな小手先のことで刑事弁護をするものではないし、できるものでもない。
4 いろんな人が、いろんなところで議論する。楽しいことだ、、という程度。
5 蛇足であるが、彼は使用していたHNのなかに、法律家の世界では検察官を意味するPという略語を使用していた。検察官である身分を隠して不当な意図があるなら、このように検察官であることを示す略語を混在させたHNなど使用しないでしょう。
 
2004/ 8/25日Winny事件に関する弁護士らの意見
1 「winnyの開発、提供行為については、仮に構成要件に該当するとしても、「許された危険」として、社会的相当性の範囲内にあり、違法性が阻却される、といった主張も、十分成り立ちうるのではないか」と、自らのBlogに記載している弁護士がいる。
 その記載されている限りにおいては、何らの異論もない。
2 今回のWinny事件の逮捕、起訴は、公訴事実の内容を知らないので断定的には言えないが、「winnyの開発、提供行為」自体が問題とされているのではないのではないでしょうか?  本件に関し、あたかも「winnyの開発、提供行為自体が問題とされている」かのように主張する人が多数いるが、問題の中核を惑わすことになるのではないかと思う。不思議に思う。
 なぜ、そのように問題を、事実と異なる形で?論調する人が多いのか、不思議である。
3 今回の事件は、単に「winnyの開発、提供行為」自体ではなく、その「提供の仕方」や、その後の、「扇動ないし教唆、幇助的な行為」が問題とされているのではないのでしょうか?? 違うのでしょうか?
 他の人の論調について、とやかく言いたくはないけれど、Winny事件の論調のなかには、何かしら、違和感が多いものが散見する。
 私がおかしいのかな?? 公訴事実の内容を知りたいものです。
4 「ソフトの開発、提供」に止まる行為は、米連邦最高裁ベータマックス裁判判決のような論理で、違法性はない、と言い切るべきでしょう。
 上記のように言い切ったうえで、「何が問題なのか」、上記「ソフトの開発、提供を越える行為があったのか」、「どのような形態で上記を越えた場合に、どのような理由で違法性を帯びるのか」等を論議すべきなように思いますが、、??、
 私が違和感を持つWinny事件の多くの論調は、論調の趣旨とは逆に、この一線をも破壊してしまうような危惧を感じます。 
 
2004/ 8/28日Winny事件に関する各種議論
1 8/25に記載したような「ソフトの開発、提供行為」についての構成要件該当性や違法性のみを論ずる議論、このような違和感を感じるWinny事件の多くの論調」は、なんらの実益も生んでいないように思える。
2 のみならず、8/25の4に記載したように、かえって、問題の焦点をあいまいにし、あたかも「単なるソフトの開発、提供行為」自体についても問題となり得るかのような誤解や不適切な視点を生み、不当な結果を招来しているように思える。
3 事実の重要性を知っているはずの法律関係者が、なぜ、事実を軽視するのか理解に苦しむところである。
 
2004/ 8/31日明日の公判
1 「弁護側は「逮捕は表現の自由の侵害」と無罪を主張する見通し」(共同通信)。
2 無罪主張を基礎づける刑法理論を聞きたいものです。
 
2004/ 9/1日第一回公判−(京都新聞) - 9月1日15時10分更新
1 検察側が朗読した冒頭陳述の骨子
イ 被告人はプログラマーとして稼働していたが、かねてインターネットが高度に普及した現状ではネット上で著作物ファイルのコピーが流通するのは避けられない流れであり、著作権者側が著作物のパッケージを店頭やネット上で有償販売することにより収益をあげるという既存のビジネススタイルから脱皮し、新たな収益方法を模索しなければならないにもかかわらず、現行の著作権法は上記のような既存のビジネスモデルを前提として著作権者を保護しており時代遅れであるなどとして、現行の著作権概念に疑問を感じていた。
ロ 「Win−MX」を使って著作物ファイルを公衆送信したものが著作権法違反で警察に逮捕された事件が大きく報道された。
ハ 被告人は同事件を知り、ますます著作権概念に対する疑問を強く感じるようになった。そこで被告人は自己のコンピューターなどに関する知識や技術を活用すれば新たなファイル共有ソフトを作れるのではないかと思うに至り、2002年4月1日、インターネットの大手掲示板で、開発を宣言した。
ニ その後、被告人は警察に摘発されないシステムにしてほしいなどとの意見や要望を取り入れるとともに、その期待に応えながら同ソフトの制作を続け、その過程で同ソフトを「Winny」と名付けた。
ホ そして被告人は、同年5月6日、ウィニーの完成を発表するとともに、自己が開設していたインターネットホームページで告知した上、無償で不特定多数人に配布し始めた。
ヘ ウィニーにより送受信されているファイルの内容につき警察が2回にわたり見分したところ、90%以上がテレビ番組、映画、音楽、アダルトビデオなどの著作物ファイルであった。
ト 被告は中立的なファイル共有ソフトの開発を目指してウィニーを制作・配布していたものではなく、もっぱら著作権法違反行為を増長させることを意図していたもので、確信犯的に行っていた。
2 金子被告意見陳述
イ ウィニーを開発、公開したのは間違いない。
ロ しかし、新型のファイル共有ソフトを作り出せるかという技術的な実験として行っていたもので、著作権侵害行為の手助けという意図ではなかった。
ハ 実行犯とは何の面識もなく、連絡を取り合ったこともない。実行犯が何をやったかも分からない。
ニ 開発で著作権侵害を容易にするような改良は一切行っていない。
ホ 技術の進化は止まらないし、止めようとしても止まるものではない。新しい技術が生み出された場合にやるべきことは、技術開発が可能であるのにそれに目をつぶって開発を禁止するのではなく、技術を有効活用する方向を目指すべきだ。
ヘ この事件は単に私だけの個人的な問題ではない。ソフト開発が犯罪のほう助に当たるという間違った前例がつくられてしまえば、日本のソフト開発者には大きな足かせになってしまう。そうならないために無罪を勝ち取るまで戦う。私は無罪だ。
(京都新聞) - 9月1日15時10分更新
3 公訴事実の内容は、どのようなものだったのでしょうか?
 
2004/ 9/24日第2回公判
 警察官作成の実況見分調書について、「作成の真正」に関する証人尋問が行われたらしい。
 
2005/19124日・2/4日第7/8回公判
「『君は2ちゃんねらーか?』と聞かれ、金子被告はむっとした様子だった」
Winny裁判、京都府警のベテラン刑事が捜査の詳細を証言
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 ファイル共有ソフトWinnyを開発・公開し、著作権法違反幇助の罪に問われた東大大学院助手・金子勇被告(34)の公判が京都地裁で続いている。著作権制度やP2P技術のあり方など、大きな問題をはらんだ裁判だが、具体的な捜査手順など、事件の本筋にかかわる証言はこれまでほとんどなかった。だが今年1月14日の第7回公判と2月4日の第8回公判で証言に立った京都府警の捜査員は、捜査のそもそもの端緒や容疑者の特定方法、金子被告との生々しいやりとりを克明に証言、捜査の流れの重要な一端が明らかにされた。(文・佐々木俊尚)
 金子被告が開いていたWinny配布サイト。K捜査官の証言によれば、金子被告はK氏の目の前でこのサイトを閉鎖した。
 本誌は、昨年9月1日に開始された公判のほとんどを傍聴している。これまでに検察側の証人として10人近い捜査官が証言したが、大半は事件の核心や背景に迫るものではなく、ごく些末な細部の確認にとどまっていた。
 だが1月14日の公判では、捜査の中核にいた京都府警の刑事が登場し、捜査の端緒から容疑者特定の手法、その後の金子被告との生々しいやりとりを証言した。当日の法廷では、検察官による主尋問と、弁護側による反対尋問の一部が行われた。以下がその証言をまとめたものである。
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経歴20年超のベテラン刑事、Winny配布サイト開設直後に察知
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 その捜査官K氏は、1980年に警察官を拝命したベテラン刑事である。京都府警で生活経済課や生活安全特捜隊などに所属。01年、府警にハイテク犯罪対策室が新設されると同時に異動し、以降、ネット犯罪の捜査に専従してきた。
 Winnyの開発が2ちゃんねるで宣言され、配布サイトが開設されたのは02年4月。府警は同月内に早くもWinnyの存在に気づいていたようだ。
 「サイバーパトロールの最中、個人のサイトか何かで『Winnyは便利だ』と書かれているのを見つけ、『何だろう』と思った。すぐに配布サイトが判明し、実際にダウンロードして動作を確認。ユーザー間でどんなファイルが送受信されているのかも調べた」とK捜査官はいう。
 サイバーパトロールとは、捜査官がネットサーフィンし、違法行為が行われていないかどうか調べて回る作業のことらしい。K捜査官は「この種の捜査に携わる捜査官の日常的な仕事で、1日2時間程度はネットを見ている」と話した。
 だが、ここから実際の捜査に至るまでにはかなり時間がかかったようだ。
 「2ちゃんねるでは、映画やゲームなどの具体名を挙げ、『これをお願い』『落とせた。ありがとう』といったやりとりが頻繁に行われていた。検挙するには、誰がファイルを送信可能にしているのか特定する必要があるが、Winnyの特徴から、送信者が意図的に送信可能にしているのか、知らずにキャッシュしているだけなのか判別できなかった」(K捜査官)
 そのころK捜査官は著作権管理団体関係者と話す機会があり、「Winnyが広く使われるようになって、非常に困っている」と相談を受けた。こうしたやりとりの結果、「この問題は看過できないと考えるようになった」という。
 試行錯誤の末たどり着いたのが、WinnyBBS(掲示板)の書き込みから送信者を特定する方法だ。WinnyBBSのスレッドのデータは、スレッドを立ち上げたユーザーのパソコンに保存される。スレッドにアクセスすれば、IPアドレスがわかる。そこで、「これからファイルを流します」とBBSで盛んに告知している人物2人に目を付け、IPアドレスを基に居場所を特定した。
 「捜査態勢上、検挙できるのは2人が精一杯。3カ月にわたってWinnyBBSを見回り、最も長期間、多くのファイルを流している悪質な2人を選んだ」という。
 03年11月27日、2人の逮捕と同時に、金子被告の自宅を家宅捜索した。
 「捜索の目的はWinnyのソースコードの押収。主犯2人の起訴のため、Winnyに本当に公衆送信権を侵害する機能があるか確認する必要があった」(K捜査官)
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家宅捜索段階ではあくまでも参考人
捜査官の目の前で配布サイトを閉鎖
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 検証にはK捜査官のほか写真担当のA捜査官、警察庁の技官2人、警察庁近畿管区通信局京都通信部の技官1人が同行した。技官の役目は技術的サポートだ。以下、K捜査官の証言を基に構成する。
 東京都文京区にある金子被告の自宅マンションに入ったK捜査官は、
「どのパソコンでWinnyを開発していたの?」
 と聞いた。室内に複数のパソコンがあったからだ。
「これです」
 と金子被告は、ベッドのそばのパソコンを指した。K捜査官が電源を投入し、
「Winnyのプログラムソースはどこ?」
 と聞くと、金子被告はマウスを操作し、ソースのありかを画面に示したという。
「これまでに配布したWinnyの古いバージョンのバックアップはあるの?」
 と聞くと、
「バージョンアップしたものは、全部残してありますよ」
 と答えた。
 検証を続けるうち、横で写真を撮っていたA捜査官が何気なく、
「君は2ちゃんねらーなのか?」
 と金子被告に聞いた。
「金子被告はその質問に相当プライドを傷つけられたというか、むっとした様子だった」
 とK捜査官は証言する。
 K捜査官が、
「君は2ちゃんねらーから神のように思われているんだな」
 と付け加えた。金子被告は、
「あいつらは使うだけの人間ですから」
 と答えたという。
 K捜査官は証言台で、
「私は2ちゃんねらーと被告は仲がいいと思っていたのですが、少し見立てが違っていたようでした」
 と語った。
 
 現場でK捜査官はさらに聞く。
「君も何かWinnyでアップしてるの?」
「私のWinnyはアップロードできませんから」
「何でアップロードできないの?」
「私の理論ですが、人間には役割があるんです。私はプログラムを作る役割があり、使う人はファイルを共有する役割がある。もちろん自己責任ですけどね」
 
 K捜査官はやりとりを振り返り、
「ファイル共有という精神を広めるのは私にも理解できたし、考え自体はいいこと、いいアイデアだと思った。だから金子被告がそういう言い方をしたのは、非常に印象的でした」
 と証言している。
 
 この段階では、金子被告はあくまで参考人だった。K捜査官は
「このときは彼を被疑者にしようという考えは毛頭なかった。プログラム開発者と犯行は全く別で、プログラマーは悪くない、使った者が悪いと思っていた」
 と証言する。
 
 ただWinnyの開発が今後も続けば、違法行為が拡大する恐れがあった。
「現場検証の前から、金子被告にWinny配布ページの閉鎖を頼もうと思っていた」
 とK捜査官はいう。
 
 そして検証終了後、K捜査官は、
「Winnyのために著作権侵害が起こっている。配布は止めてくれないだろうか」
 と頼んだ。金子被告は、
「警察が来たら、どうせ止めるつもりだったんです」
 と言って、その場でWinny配布サイトを閉鎖したという。
 
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「『著作権侵害蔓延狙う』の発言は
警視庁本富士署での聴取時」と捜査官
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 K捜査官は金子被告に「調書を取らなければいけない」と告げた。金子被告は、
「被疑者としてですか? それとも単なる参考人聴取ですか。京都に行かなければいけないのでしょうか」
 と尋ねた。
「あくまで参考人だよ。それに京都ではなく、近くの本富士署で話を聞きたい。すまないが、本富士署まで来てくれないか」
 そうして金子被告を含む一行は文京区内の警視庁本富士署に向かい、約3時間にわたって調書の録取を行った。
 聴取は主にA捜査官が行った。目的はWinnyの機能の技術的説明を聞くことだったという。途中、A捜査官が取調室の外にいたK捜査官を呼び、
「『今後Winnyを開発しない』という誓約書を書くと言っています」
 と伝えたので、K捜査官は用紙を手渡したという。
 ところがその後、金子被告は、K捜査官らが想像もしなかったことを、聴取の場で語り始めたという。つまり金子被告逮捕の際に捜査情報として報道された、
「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権のあり方を変えるのがWinny開発の目的だった」
 という論理を、このとき展開し始めたのだとK捜査官は証言する。K捜査官は驚いて京都府警に電話し、上司の警部らに相談した。
「こんなことを言い出したんですよ。どうしたらええんでしょうかねえ」
 
 だがその場で結論は出ない。K捜査官は「こんな前例のない事件を現場で判断するのは無理」と考え、あくまで参考人聴取として金子被告の言い分をすべて聞き取り、京都に帰ったという。
 
 証言台でK捜査官は振り返った。
「その日は技術部分などはあまり聞けなかった。被告本人が言い出した重大な内容をきちんと聞いておくべきだと考えたからです。彼の言い出した主張は、私たちにとっても驚くべきものでした」
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「『著作権侵害蔓延』は刑事の作文」
弁護側は反対尋問で追及
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 2月4日に開かれた第8回公判では、引き続き弁護側がK捜査官に対する反対尋問を行った。その中で、本富士署での事情聴取の際に金子被告が提出した申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」というくだりがあることが明らかになった。
 
 「申述書」というのは警察の取り調べの際に一般的に使われる文書様式で、事情聴取を受けた人間が考えたことをそのまま書き、提出する文書のことを指すそうだ。誓約書の書式がわからないと言った金子被告に対し、K捜査官は別室で見本の申述書を書き上げ、本人に手渡したのだという。K捜査官の見本の申述書は京都府警五条署長宛てになっており、冒頭に本籍・住所・生年月日・名前が書かれていた。
 
 弁護側が反対尋問で追及したのは、この申述書が果たして、本当に金子被告の真意を写し取ったものであるのかどうかということだった。つまり申述書はK捜査官が作成したサンプルをそのまま写させられただけで、金子被告の真意がそこに本当に含まれているのかどうかを疑問視したのである。
 
 弁護側は、申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」という記載がある点について、
 「これは金子被告の書いた言葉か?」
 と質問した。これに対してK捜査官は、
 「私がサンプルとして書いた文章です」
 と回答。そして「それまでA捜査官が行っていた金子被告の聴取にずっと立ち会っていたので、その時に彼が使った言葉だったと思う」と説明した。
 
 だが弁護側は、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)や映画著作権団体の供述調書に再三、「著作権侵害を蔓延させた」という言葉が出てくることから、この「蔓延」という用語はK捜査官の作文だったのではないかと追及したのである。
 
 K捜査官らは、金子被告宅でWinnyのソースコードなどを11月27日に押収し、参考人聴取した。そしてK捜査官に続いて証言台に立った同僚のT捜査官は、1カ月後の同年12月27日にはこの名目を「被疑者として」に切り替え、再度金子被告に対する聴取を行った、と証言した。
 
 この段階ですでに同府警は金子被告逮捕に向かって動きはじめていた可能性が出てきた。
 
 T捜査官は、
 「11月27日の家宅捜索ではあくまで参考人聴取だったので、これを被疑者として聴取した場合にその聴取内容がかわるかどうかを、調べる必要があった」
 と証言した。T捜査官によれば、この聴取の際の金子被告の発言には、
 「自分が(Winnyを)開発したのは、確信犯的だった
  私の狙っていた革命は成功した」
 といった内容が含まれていたという。そしてこの日に再度金子被告宅への家宅捜索も実施し、2ちゃんねるのダウンロード板のログや、その中の「47氏」名目の書き込みなどのデータを押収したという。
 
 金子被告側は初公判で「著作権侵害の手助けをする意図はなかった」と主張しており、今回の一連の証言と真っ向から対立する。こうした一連の証言に対する被告側の反論も含め、より詳しい事実関係が今後の法廷で明らかにされることを期待したい。本誌は今後も裁判の傍聴を続け、随時報告していく予定だ。
(ASAHIパソコン2005年3月1日号News&Viewsから)
 
 
第二 Winny事件における、幇助意思と因果関係=行為類型
   −−問題解決のために−−(教唆的幇助意思の理論)
 Winny開発者擁護の立場の人からは、異論があるでしょうが・・・・
 検察が、幇助の罪で起訴するなら、行為類型として、正当行為の場合と区別するため
本件は、「教唆的な幇助」である。
 この教唆的という点が、行為類型としての正当行為との区別であり、可罰性の根拠である、なんて、、、言うのじゃ、、ないかしら?? 知りたいですね。
 
1 客観的に見て、幇助となり得る行為、、なんて、、無限定
2 だからこそ、例えば
 イ 使い方を教えたとか、
 ロ 依頼に応じて著作権侵害をやりやすくするような改良を加えたとか、という事実がない限り、
 ハ これを幇助とするのは処罰の範囲があまりに広がりすぎる
という難点がある。
 
 しかし、Winny(殆ど、しりませんが・・・)のようなケースの場合
 
3 2記載のような限定、制限方法は、実態にそぐわなくなってきている。
  今回のWinnyのようなケースの場合、共犯と疑われる人と正犯者との間に、具体的な共犯、通謀関係が希薄となっているからである。   
4 従来の理論と違う、限定、制限方法を模索する必要性がでてきた
5 刑法学者も、これについていっていない
6 だから、法律家のみならず、一般の人も、予測困難というのが・・現状・・かも
 
7 試案ですが・・・
イ 客観的に幇助となり得る行為をした
ロ 幇助を容認する意思のみで、幇助の故意を認めると、無限定になり過ぎる。
ハ なんらかの、予測可能な限定方法が必要
ニ 検察は・・その限定方法として・・・「教唆の意思の存在」に求めた・・・??
ホ 客観的に幇助となり得る行為をした場合
  仮に、、その人が、、幇助の結果を生むことを予測し、、それを容認しただけで、、
幇助意思ありとして、主観、客観の要件が具備したとして犯罪成立を肯定すると、すばらしいIT技術の進化、発展を阻害する結果となる。
へ 従って、このような場合には、、単なる幇助結果の容認ではなく、もっと、強い、教唆に匹敵する意思が認められる場合にのみ幇助の意思を肯定すべきである。
ト 「教唆的幇助の意思」・・が肯定される場合にのみ、幇助の故意を肯定すべきである。
チ このように限定すれば、IT技術者の懸念は払拭でき、問題の解決は可能かも???
 
三 この幇助意思を限定する理論は、幇助正犯の実行行為との間の相当因果関係を補強肯定する機能を持ち、そして、それは、「意思と行為と結果」により構成される行為類型を限定する役割を持つものである。
 それは、正当な行為と区別するための行為類型論(行為論)でもある。
 
四 Winny事件の場合、被告人に
1 従来の共犯理論におけると同程度の教唆意思(幇助意思を含む)と教唆行為(幇助行為を含む)(但し、正犯との関係における個別的、具体的行為は不要)が認められるか否か。
2 1が肯定されて、本件は幇助犯の成立が肯定される。
 
五 視点−再考
1 上に記載した「教唆的幇助意思の理論」を違った視点で評価してみる。
2 問題の所在は
イ ネットの普及により、正犯との個別的、具体的通謀(片面的幇助の場合を含め)が希薄なケースが生じてきている。
ロ 他方、幇助概念の曖昧さから、正犯との個別的、具体的通謀(片面的幇助の場合を含め)がない場合においても、従来の幇助に関する刑法理論からすれば、これを幇助に該当するという結論も可能である。
ハ しかし、ロのような結論を是とすれば、法律が想定している「扇動行為」と「幇助行為」との区別が曖昧となり、罪刑法定主義の観点から問題が残る。
ニ 結局、本件の問題は、ネット社会の拡大、浸透に伴う「扇動行為と幇助行為の線引き」にあるとも思われる。
ホ 扇動行為と幇助行為の線引きをどうするのか。
  因果関係に求めることは困難なようであるし、故意の内容に限定を加える方策も理論的な問題を残すようにも思われる。
  やはり、「当該行為と正犯行為との関連」というか、「当該扇動行為が、正犯行為に与える影響の強さ」に求めるほか、他に適切な線引きの論理が見つからないようにも思える。
 可罰性についての国民の支持を得ることができるかもしれない。
 
ヘ Winny事件の場合も、「従来の共犯理論におけると同程度の教唆意思(幇助意思を含む)と教唆行為(幇助行為を含む)が認められるか否か」により、幇助の該当性を判断すべきであり、これが認められなければ無罪とすべきか。
 しかし、このような理論は、それ自体曖昧さを持っており、線引きの理論としては適切ではないという批判もあり得るが、他に適切な理論が見つからない以上、判例理論の集積による予測可能性を追求するしかないのかもしれない。
 
     嫌なものから
          目を背ける人に
               勝利の女神は、微笑えまない!!
 
六 視点−再々考
1 もう一度、考えてみる。
  なぜ、法律は「幇助行為」以外に、「扇動行為」という概念を定めたのか?
 
七 視点−再々考
イ 扇動行為と幇助行為の線引きについては、上記のように考える他ないのかもしれない。
ロ ここで、もう一度、いわゆる「中立的行為」について考えてみる。
 この「中立的行為」という問題点の出発点は、中立的行為であっても、主観、客観の構成要件該当性を検討すると、犯罪構成要件に該当し得るものである、というところにあったはずである。
 しかし、この出発論理がもともと社会常識に反するものであり、その社会常識に反する論理を修正するために、無駄な議論をしてきているようにも思える。
 前記のとおり、「教唆的」というような概念を用いたのは、単なる中立的行為の犯罪構成要件該当性を否定するための論理でもある。それは、言葉を変えれば、単なる「中立的行為」のみでは犯罪構成要件に該当するとの判断は不当であり、「中立的行為」を越えた「+アルフ行為」が必要であるというのと結論を一にする。
 このように考えてくると、「中立的行為」の議論は特別必要性がないこととなってくる。
 「中立行為」は中立行為であることから、犯罪構成要件該当性を論じること自体無用であり、構成要件該当性はない。中立的行為であるということは、「当該行為が正犯行為を幇助するものである」と評価するに足りる法的な相当因果関係が認められないからである。中立的行為の「中立」という所以はここにあると考えるべきである。
 しかし、それを逸脱する「+アルファ行為」があれば、当然別問題であり、通常の刑法論理で、この「+アルファ行為」の構成要件該当性を検討すれば足りることとなる。
 このように考えてくると、「教唆的幇助意思の理論」も無用のものとなる。
 
 
 
八 小倉秀夫弁護士改正試案
1 小倉秀夫弁護士の著作権法改正試案が公表されている。そのなかに、Winny事件に関連する「中立的行為の保護」という新設条項がある。
 
(中立的行為の保護)
第百十二条
 著作権、著作者人格権又は著作隣接権(以下この条において「著作権等」という。)を侵害する行為以外の行為に用いられ又は用いられる可能性がある物(プログラムを含む。)又は役務を開発し、生産し、譲渡し、貸与し、又は提供する行為は、当該物又は役務が著作権等を侵害する行為に用いられ又は用いられる可能性があることを知りたる場合と雖も、著作権等を侵害し若しくは著作権等の侵害を教唆又は幇助しないものとみなす。
2 前項の規定は、特定の著作権等侵害行為をことさらに教唆又は幇助する場合には適用しない。
 
2 要するに、「侵害行為供用ないし供用の可能性の認識」ある場合でも、「教唆又は幇助しないものとみなす」というみなし条項を新設すべしという立論のよう。
 趣旨は妥当と考えられる。
 
3 この問題について、もう一度、刑法理論を検討してみる。 
イ 前述した「行為論」の中身を再分析すれば、本件の問題点は、「故意」と「因果関係」にある。
ロ 自らの行為により、正犯者が犯罪の実行行為に至るか、正犯者の実行行為を容易にするか、という因果関係とその認識、認容の問題である。
ハ Winny事件についての新聞報道による理解を前提とすれば、本件の問題とされた行為は、従来の理解からすれば、破壊活動防止法4条2項所定の「せん動」(=特定の行為を実行させる目的をもって、文書若しくは図画又は言動により、人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えること)行為に該当するようにも思える。
 仮に、本件行為が、破防法所定の「せん動」のようなものと評価すべきであったとしたら、教唆、幇助との識別基準をどこに求めるのか。
 破防法所定の「せん動」は、正犯者の実行行為を必要とせず、教唆ないし幇助的行為の独立処罰規定である。即ち、その行為と正犯者の実行行為との間の因果関係は要求されない。
 仮に因果関係が立証され、教唆、幇助に該当する場合には、重い方での処罰を受けることとなる。
 著作権法に「せん動」処罰規定がない以上、仮に本件行為が、「せん動」という行為に止まるものであれば、有罪認定は問題を含むこととなる。罪刑法定主義に違反するという立論もあり得るからである。しかし、本件の場合には、因果関係の立証は可能なようでもある。「せん動」という行為を越えている可能性がある。
ニ やはり、「中立的行為」の可罰、非可罰の問題は、以前、解消困難なのかもしれない。
 
第三 問題解決のために−その他の理論
1 松生光正「中立的行為による幇助(一)」姫路法学二七・二八合併号二〇三頁以下
  「本来は犯罪者や犯罪行為と無関係な、法的に否認されていない目的の行為という意味で『中立的な』と包括的に表現しうる行為によって犯罪を幇助した場合の処罰の制限に関する解釈論上の根拠について」の問題であり、これは例えば、脱税目的で他人の預金口座に振り込みを行う場合、そのような客の目的を(未必的にであれ)知りながら手続きを行った銀行員について、脱税の幇助の罪責が問われる場合に問題となる。このような行為の処罰を制限すべき理由を、「このようないわば相手を選ばない取引的・業務的行為は、つねに他者の犯罪に役立ちうる可能性を有しているのであるから、故意が偶然につけ加わるだけで幇助犯として処罰されるということになると、処罰の範囲が拡張され、法的安全性が害されるだけでなく、さらに業務に携わる者はつねに自己の行為が犯罪に利用されないよう警戒しなければならず、そのような可能性を認識すれば行為してはならないということになり、社会的な交渉にとって大きな障害となりうる」
 
 
 
 
 
 
 
第四 自動送信可能化権について
   ・・ もうひとつの問題・・
1 Winny事件に関連して、もうひとつの問題がある。
  著作権法が認める「送信可能化権」についてである。これは、インターネットなどによる公衆送信という方法による著作権侵害ではなく、アクセスしてきた者が自由にダウンロードできる状態に置くことを想定している。
 インターネットの普及により、送信という方法により著作権が侵害されたか否か、などわからない、立証が困難であるということにより、送信の一歩前の、送信可能な状態に置くことを著作権者の権利として保護し、著作権者の許諾なく、このような行為をした者を著作権侵害と構成するためのテクニークである。
 「送信可能化行為」を阻止しなければ、無許諾「送信行為」を阻止できない。
 
2 この「送信可能な状態に置く」という行為をどのように理解するのかが、もうひとつの問題である。
 立法の趣旨からすれば、上記のように、送信の有無、著作権侵害の有無についての著作権者の権利保護を容易にするテクニークといえよう。「送信可能化の状態に置く」=同価値=「送信」という図式である。
 
3 この送信前の送信可能化状態に置くことを送信と「同価値と評価すること」について、その価値判断の当否が、まず第一の問題であるにもかかわらず、この論点を省略して、他の論点からアプローチしようとの意見もあるようである。
 「送信」が著作権侵害であるとしても、その送信前の「送信可能化状態に置くこと」を著作権侵害とすることは、「例えば、表現行為の事前抑制であり、憲法違反ではないか」というような議論である。
 
イ このような論点省略論理は問題を持つものと考える。
 
ロ  なぜなら、「送信可能な状態に置くこと」が「送信前の行為であり、事前抑制である 」との論理の前提には、「送信」と「送信可能な状態に置くこと」は同価値ではないという前提論理が伏在しているからである。
 もちろん、「同価値ではない」という前提論理を採用するならば問題はないものの、では、「なぜ、同価値と見てはいけないのか」という「送信可能な状態に置く行為」の独自性の存在とその内容を説明すべきであるということとなる。
 
ハ 「保護すべきか」、「どのようにして保護すべきか」という観点(保護法益確保の視点)からすれば、同価値と見る考え方が、著作権法で「送信可能化権」を設定した立法理由ないし趣旨であろうと推測される。この状態に置くことを権利として認めなければ、「著作権者に認めた送信する権利」が有名無実となる、との発想ではなかろうか。
 
ニ 「送信可能な状態に置くことを権利として認めなければ、著作権者に認めた送信する権利が有名無実となる」という論理に、それなりの根拠、理由が認められるとすれば、前記のような省略論理を採用する立場には、「なぜ、同価値と見てはいけないのか、という送信可能な状態に置く行為の独自性の存在とその内容」を説明しなければ、その考え方に賛同を得ることは困難ではなかろうか。
 
ホ なお、「送信可能化権」という権利を設定した理由として、著作権侵害行為である「送信行為」の予備、未遂規定のような趣旨であるという人がいる。
 行為類型として、「送信可能化行為」が「送信行為」の前段階の行為であり、その意味で予備ないし未遂規定のような位置にあるものの、排他的複製権の侵害行為がなされていない「送信可能化行為」を著作権者に認める理由は、上記のような「送信可能化行為を阻止しなければ、無許諾送信行為を阻止できない」という送信行為による著作権侵害行為の立証の困難性に配慮したものであり、実行行為と予備ないし未遂規定との関係とは異なる性格のものと考えるのが正当である。
 
 
参考
 WIPO著作権条約8条は、「公衆への伝達は、公衆への伝達可能化を含む」と規定しているようである。
 
 
 
第五 間接幇助など
   ・・ Winny事件の波紋
一 間接幇助の可罰性への波紋
1 幇助の幇助などをどのように考えるのか。
  判例は可罰性を肯定していると理解され、学説上では議論がある。
  可罰性を肯定する学説などは、間接幇助も正犯の幇助と理解可能であるとして、単純にその可罰性を肯定するようである。
2 上記のような可罰性肯定の理論は、今回のWinny事件により、再考を求められているようにも思える。なぜなら、間接幇助も幇助であるとする理論は、正犯との直接ないし具体的な関連が希薄な幇助事例について、無限の間接幇助理論の展開、連鎖を肯定する結論になるような側面があるからである。
 そのような結論が妥当なのか。再考、再検討を要する側面はないのか。
 新たな問題をよび起こしているようにも思える。 
 
 
 
 
 
 
第六 Winnyシンポなど遠望
一 下記は、南山大学町村教授のBlogの記載である。
        http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/
 
June 28, 2004
ウィニーシンポ
本日はWinnyシンポがあった。
 
 会場は8割方埋まって、大盛況であった。この問題への関心の高さをうかがわせる。
 第一部の技術的側面に関する報告では、最初の報告者宇田氏がウィニーの機能を解説し、特に暗号による匿名化機能はほとんど役に立っていない、ウィニーを起動し、何をアップしたりキャッシュに蓄えたりしているかは外部から特定可能であると強調した。「これを聞いて気分が悪くなった方はお家にお帰りになっては」という「ユーモア」は、少々失敗であったかも。
 次の岡村耕二氏は、九大のネットワーク管理者の立場から報告した。ネットワーク管理者は、情報倫理問題が大学執行部の大きな関心事にならざるを得なくなってきた現状で、官僚的に振る舞わざるを得ず、P2Pソフトの使用禁止を検討してきたし、その禁止に踏み切る方向でいるとのこと。
 丸山宏氏の報告は、P2Pにおいて不正コピー防止は可能か、というタイトルであったが、その問には直接答えず、防止よりも抑止が効果的であることと、Winnyのような技術をディスカレッジすることの危険性に言及していた。
 
 第二部は法律関係で、最初は岡村久道氏。アメリカと日本の関係判例を簡潔に紹介した。 次は弁護団を代表して壇弁護士。
 壇弁護士は、Winny開発者の逮捕が経済産業政策としての損失と処罰の無限定な広がりをもたらす恐れを強調した。
 そして落合洋司弁護士が最後に、招待に答えてもらえなかった権利者団体の見解を、公開されている内容から紹介し、それぞれ当を得ない点に疑問を呈していた。
 
 パネルディスカッションでは、様々な論点がたたかわされたが、肝心の権利者団体ないし警察の見方を述べる人がいなかったため、総じて対立軸が明確にならないものであった。
ただ、最後にWEB110の吉川さんが、「それでは被害者はどうすればよいのか」という問題提起をしていたが、きちんとした議論になるのには遅すぎの感があった。
 
二 素人、門外漢の雑感
1 宇田氏の報告によると「特に暗号による匿名化機能はほとんど役に立っていない」ということらしい。
  もし、事実であれば、「匿名化機能」を根拠としたWinny機能論及びそれに立脚した立論などは崩壊してしまう。
  そして、「ファイル交換という機能」をどう考えるのか、という視点での議論になるのか??
2 「丸山宏氏の報告は、P2Pにおいて不正コピー防止は可能か、というタイトルであったが、その問には直接答えず ・・」ということであったらしい。
  しかし、素人としては、この点がどうなのか、答えというか、教えて欲しい気がする。
  「ファイル交換プログラム」と「送信可能化権の必要性」という問題についての、論点のひとつのような気がするから、、、、。
3 弁護団を代表して壇弁護士、「処罰の無限定な広がりをもたらす恐れを強調した」とある。
 では、どうすればいいのか。どうあるべきなのか。どう考えているのか。
 そこのところを開示して欲しい気がする。
 「よくない、よくない」、「弊害がある、弊害がある」というだけでは、解決はしない。
  現在の主張のみでは、裁判所も検察庁も、そして立法に関与する法務省も一顧だにしないように思える。
  解釈論の提示か、立法論の提示か、第三の方策か、本件の問題の解明とその解決の方策を積極的に求めていくべきでしょう。
 
 
 
 
 
第七 外国
1 米国でも「Winny型」逮捕者出るか?上院で法案提出
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/it/316409
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 2004年06月29日 12時33分
 米国の上院議員6人が連名で、著作権侵害を助長する製品の開発を不法行為として取り締まることを目的とした法案「Inducing Infringement of Copyrights Act of 2004」を提出した。
 この法案の支持者は、ピア・ツー・ピアのファイル共有システムを提供することによって著作権侵害に関する自社の法的責任をユーザーに転嫁する企業の行為を規制できると主張する。一方で批判的な姿勢を取る人々は同法案の内容は行き過ぎで、成立すれば大手企業が多額の賠償金を支払わなければならなくなる可能性があるという。
 少なくともこの法案は、ピア・ツー・ピアのファイル共有システムの開発者を逮捕したり提訴したりすることを可能にするかもしれない。ちょうど日本でファイル交換ソフト「Winny」の開発者が逮捕されたことと同じようにである。
 今回の法案は、ピア・ツー・ピアのフィル共有システムGroksterとMorpheusを開発した企業の行為について「著作権侵害ではない」としたカリフォルニア州の中部地方裁判所が2003年4月に下した判決に対する問題提起と位置づけられる。
 2つのソフトウエアとファイル交換で有名だったNapster社のソフトウエアの違いは、Napster社のシステムが同社が運営するサーバに依存していたため、ユーザー間でファイルの不法コピーがなされているかどうかを同社が確認できたことにある。GroksterとMorpheusのシステムは、ユーザーのパソコンを利用した分散データベースを利用する。このため、両社はユーザー間で不法コピーが行われているかどうかについて知るすべがないと主張していた。
 法案の提案者に名を連ねる上院議員のOrrin Hatch氏は声明の中で今回の提案の背景には上記の判例が支持されている状態では、ピア・ツー・ピアのネットワークでやりとりされるファイルに関する法的問題をユーザーが追及される現状があると語っている。こうしたシステムによって、性犯罪に関連するものなど違法なファイルがやりとりされているため、ユーザの法的責任は大きいという。
 Hatch氏は、ピア・ツー・ピアのファイル共有システムを利用するユーザーの約半分は子供であることから、こうしたシステムを提供する企業は低年齢層による著作権侵害を手助けしていることになると主張する。実例として同氏は、ある著作物を800回以上も他者と共有したとして訴えられたユーザーが、その後に12歳の学生であることが判明したことを引き合いに出した。(Phil Keys=シリコンバレー支局)
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2 米連邦高裁判決
 サンフランシスコの米連邦高裁は19日、インターネット上で情報を交換できるファイル共有ソフトの提供者に音楽や映画の著作権侵害の責任を問えないとの判決を下した。
 高裁判決は、ソフト会社は著作権の有無にかかわらず、情報を共有しようとする個人にソフトを提供しているだけで、著作権侵害行為に深く関与してはいないと認定した。
 今回の判断は、ファイル交換サービスはユーザーの違法行為に対する責任を問われないという、2003年4月の連邦地方裁判所の裁定を踏襲したもの。
3 米連邦最高裁ベータマックス裁判判決
 1984年に行なわれたソニーのベータマックス裁判において、米最高裁判所は、新技術実質的、合法的用途に用いられている限り、その違法な使用について技術自体が責任を負わされることはないとの判決をしているよう。