消費税と弁済法定充当計算
大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
一 事例
売掛金100万円(別途消費税5万円)及びその後の売掛金50万円(別途消費税2万5000円)の二口の債務があるときに、120万円を弁済した場合、法定充当計算はどうなるのか。
二 前提問題
この問題は、消費税について、売掛金本体と同様に、当然、遅延損害金の請求ができるのかということと関連する。なぜなら、消費税分に遅延損害金が発生しないとしたら、弁済充当は、債務者に有利なように、遅延損害金を発生させる売掛金本体に充当されることとなり、売掛金残(100+50−120=30)30万円と消費税分、5万円及び2万5000円が残っているということとなるからである。
三 結論と誤解
しかし、上記二記載の「消費税分に遅延損害金が発生しない」という論理に誤解がある。
詳論は次に記載するが
1 消費税課税対象資産の譲渡等がなされた時点で、売り主に消費税の納税義務が発生する。
2 決して、買い主に消費税の納税義務が発生するわけではない。
3 売り主に発生した納税義務の対象となる具体的な消費税納税金額は、資産譲渡の時点では未確定である。
4 消費税も、申告納税制度の下、申告を契機として、金額が確定されていくのである。
5 また、消費税納税義務が免除される場合もある。
6 従って、売掛金100万円(別途消費税5万円)という売買価格の表示は、「売掛金本体価格100万円と消費税という税金の税額5万円」という意味ではなく、「売掛金本体価格として想定した100万円と売り主が将来課税されるかもしれない消費税相当分を買い主に転嫁させてもらう金額相当分としての5万円」という意味であり、売り主が金額算定の根拠として想定する理由には差違があるものの、いずれも買い主から受領を予定した売買価格そのものなのである。
そこには、消費税納税義務の存否や納税金額との一致などは要求されていない。
(別途消費税5万円)という表示は、「売り主に将来消費税が課税されるかもしれないので、その想定可能金額を本体価格に上乗せさせて、売買価格を増加させます」という意味なのである。
消費税ではなく、売買価格の増加分なのである。
7 従って、売掛金100万円(別途消費税5万円)という場合、その総額の105万円について、約定弁済日から、遅延損害金の請求をして何ら差し支えないものなのである。
8 本稿は、上記二の前提問題の想定自体に誤解と誤りがあることによるものであり、問題とはならないと言っていいのである。
四 売掛金請求訴訟・弁論主義との関連(裁判官の誤解)
1 上記の結論が正当であったとして、売掛金請求訴訟(弁論主義)との関連で注意点は何か。
2 判決をする裁判官の中には、消費税に関する前記三記載を知らず、単純に、「売掛金100万円(別途消費税5万円)という主張は、売掛金本体100万円と売主が買主から徴収すべき消費税額5万円」というように誤解し、消費税額については、遅延損害金を付さない判決をする人がいる。
3 たしかに、売掛金100万円(別途消費税5万円)という主張は、「売掛金100万円及び別途消費税5万円」という主張となり、この表示では、「売買価格が105万円である」という主張がなされていないという理解も可能かもしれない。
4 前記の主張を正確に主張し、全額について遅延損害金の給付判決を取得するためには、「売掛金本体100万円(別途消費税転嫁売買価格5万円)・合計105万円」とでも、表示するか。
五
続く