反復弁済借受場合の消費者金融と
利息制限法制限利率
大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
一 適用利率の法理
1 民法+利限法の規定の仕方からすれば、貸金契約における利息金計算について採用される計算利率は、理論的には
イ 当事者間の合意
ロ 当事者の合意+利限法による合意の一部否定
により決定され、「利率変動に関する合意」ないし「準消費貸借の合意」がない場合には、残元金額により利率が変動する理由はない。
2 では、借受、弁済などを反復する消費者金融の場合において、適用すべき制限利率はどうなるのか。
事実を指摘すれば、「貸金契約書に貸金業者らの採用上限利率である29.2パーセントの記載がある」のみである。
イ 初回の貸金の場合、当事者間には通常反復借受などについての明示的な合意はない場合が多い。
ロ しかし、反復弁済のなかで、貸金業者らは反復借受と弁済を求め、消費者らもこれに応じて、反復借受、そして反復弁済をしていく。
このように当事者間で、反復弁済、反復借受についての明示的ないし黙示的合意が認められる場合には、貸金業者から消費者に対し、一定限度の与信の枠というか借受上限金額が示される場合が多い。
このように当事者間において反復弁済、反復借受の明示ないし黙示的合意が認められる場合、当事者間の適用利率に関する合意としては「残元金の金額如何にかかわらず、29.2パーセントの利率を適用する」といったものが多い。
二 反復弁済、借受の合意がない場合
前記一の2のイの場合のように当事者間に反復弁済、反復借受の合意の存在が認められない場合には、当該貸金、交付金額に対し、合意利率の合意を利息制限法を適用して一部否定し、利息制限法所定の制限利率を決定、採用することとなる。
三 反復弁済、借受の合意が認められる場合(=包括的利率不変動の合意が認められる場合)
1 このような場合について、次のような考え方がある。
実務で、適用する制限利率を下げるというのは、例えば、残元金が5万円から13万円に増えるような場合だが、残元金が増えるというのは、この時点で追加貸付がある。
消費者金融の多くの場合、途中の貸付行為も当初の包括的な契約に基づいて行われる。
逆に言えば、こういう消費貸借契約は、契約当初の貸付についてのみ利率を合意しているのではなくて、その後の貸増しを予定して、貸増しがなされた時点での残元金の額にかかわらず、残元金に対して○○パーセント(例えば29.2パーセント)の利息をいただきます、という契約である。そこには利率変動に関する合意がある。つまり「残元金額如何にかかわらず、利率を変動させない」という合意がある。
従って、この利率不変動の合意に基づく利率(例えば29.2パーセントという利率の合意)に利息制限法を適用するということになるわけで、その結果、貸増しによって残元金が5万円から13万円となった場合には、元金13万円について29.2パーセントの約定利率があることとなり、制限利率は年20パーセントではなく年18パーセントを適用すべきということになる。
このように考えてくると、反復弁済ないし反復借受の途中から債務者の有利な方向へ利率を変動させるという実務は、理論的にも正しい場合が多いのではないのか。
2 1記載の考え方は、消費者金融の実情を直視したものであり、その意味では妥当性があるかもしれない。
しかし、消費者金融で借受けをする場合について、一律に「消費者金融の多くの場合、途中の貸付行為も当初の包括的な契約に基づいて行われる。逆に言えば、消費貸借契約は、契約当初の貸付についてのみ利率を合意しているのではなくて、その後の貸増しを予定して、貸増しがなされた時点での残元金の額にかかわらず、残元金に対して○○パーセント(例えば29.2パーセント)の利息をいただきます、という契約である」と言い切ることの妥当性に疑問がある。
3 消費者金融業者が消費者に対し、「一定枠の与信を与えた」場合には、当事者間において反復借受や反復弁済が予定されたと認めることも可能であり、そのような場合には、そのような事情が生じた以降の貸付については、1記載のようにな包括的な「利率不変動の合意の存在」を認定することも可能であり、1記載のような立論も肯定できるかもしれない。
しかし、前記のとおり、「一定枠の与信」の有無に関わらず、包括的な利率不変動の合意を認定してしまうことについては、「当事者間の事実を無視ないし軽視している」との批判もあり得るものと考えられる。
4 また、前記1記載の立論は大きな理論的な問題を持っているとも考えられる。
それは、採用すべき制限利率という本件の問題を考えるについて、「利率に関する合意(=利率不変動の合意)」のみに着眼しているという問題点である。
通常、借受残金が残っている債務者が追加で借受をし、その合計残高について、反復弁済を予定するような場合には、準消費貸借契約の合意が認定できる場合が多い。
このような残債務と追加借受金額の合計を消費貸借契約の目的物とするという準消費貸借契約の場合においては、当然、当該準消費貸借契約の目的物である合算金額に対し利息制限法を適用すべきということとなり、残元金に対して利息制限法を適用するというのではなく、新たな(準)消費貸借契約の目的物である合算金額に対し利息制限法を適用するということとなる。それは「適用利率の不変動の合意」ではなく、単純に「貸金契約の目的物である合意金額に利息制限法を適用する」ということとなり、「利率の不変動の合意」というものが介在する余地はないとも言えるのである。
5 以上のように考えてくると、前記1記載の立論は、その内容の妥当性はさておき、適用利率決定の法理に問題が残ると言える。
(検討、続行)