20230308 加筆訂正
道路交通法上の、「追越し行為」などについて
1 追越し
道路交通法上,危険な行為として多用な規制おこなわれている「追い越し」(道路交通法2条の21,同法26条〜32条 )について
(1)定義
道路交通法2条21号において,下記のとおり,「追越し」行為の定義がなされている。
道交法2条21号
追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において,その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し,かつ,当該車両等の前方に出ることをいう。
(2)危険性
車両通行帯区分がある道路において,例えば,走行車線と追い越し車線の二車線がある道路において,「(走行車線において)車両が他の車両等に追い付いた場合において,その進路を変えて(追い越し車線にでて)その追い付いた車両等の側方を通過し,かつ,当該車両等の前方に出ること」と定義されているが,後記国家公安委員会告示第三号交通の方法に関する教則(昭和五十三年十月三十日)の指示内容から,追い越しをした車両が最も右側の車両通行帯(追い越し車線)を通行して追越しをする場合は,追越しが終わつたときは,速やかにそれ以外の車両通行帯(走行車線)に戻らなければならないとされており,結局,「追い越し車両は,追い越し行為後,速やかに,追い越した車両の進路上,前方に戻らなければならない」こととされている。
このように,
例えば,走行車線と追い越し車線の二車線がある車両通行帯がある道路での追い越し越し行為は,
右側に車線変更をして追い越し車線に出た後,
再度左側に車線変更をして,前車の進路上,その前方に、自車を進行させなければならないこととなり,
自車と前車との速度差,自車と前車との離隔距離などにより,場合によっては,前車前部等と自車後部等が接触、衝突する危険性があり交通事故を誘発しかねないものであることから,多くの規制がなされている。
(3)諸規制など
追い越しについての規制は多様にわたっており,後記のとおり、道路交通法26条〜等による規制がなされている。
2 「追い越し」の具体的運転方法など
(1)前記のとおり,追い越しは危険な行為であることから,国家公安委員会告示第三号交通の方法に関する教則(昭和五十三年十月三十日)において,追い越しに関する具体的な諸規制や追い越しの手順等が示されている。
・・・・・・
交通の方法に関する教則(昭和五十三年十月三十日)(国家公安委員会告示第三号)
第6節 追越しなど
1 追越しの禁止
(1) 追越しとは,車が進路を変えて,進行中の前の車の前方に出ることをいいます。追越しは,進路を変え,加速した上で再び進路を戻すという複雑な運転操作を必要とします。
(2) 次の場合は危険ですから追越しをしてはいけません。
ア 前の車が自動車を追い越そうとしているとき(二重追越し)。
イ 前の車が右折などのため右側に進路を変えようとしているとき。
ウ 道路の右側部分に入つて追越しをしようとする場合に,反対方向からの車や路面電車の進行を妨げるようなときや前の車の進行を妨げなければ道路の左側部分に戻ることができないようなとき。
エ 後ろの車が自分の車を追い越そうとしているとき。
(3) 次の場所では,自動車や原動機付自転車を追い越すため,進路を変えたり,その横を通り過ぎたりしてはいけません。
ア 標識(付表3(1)16)により追越しが禁止されている場所
イ 道路の曲がり角付近
ウ 上り坂の頂上付近やこう配の急な下り坂
エ トンネル(車両通行帯がある場合を除きます。)
オ 交差点とその手前から30メートル以内の場所(優先道路を通行している場合を除きます。)
カ 踏切,横断歩道,自転車横断帯とその手前から30メートル以内の場所
(4) 標識(付表3(1)15)や標示(付表3(2)2)で示されているときは,追越しのために道路の右側部分にはみ出して通行してはいけません。
(平14公安告15・平20公安告7・一部改正)
2 追越しの方法
(1) ほかの車を追い越すときは,その右側を通行しなければなりません。しかし,ほかの車が右折するため,道路の中央(一方通行の道路では,右端)に寄つて通行しているときや,路面電車を追い越そうとするときは,その左端を通行しなければなりません。
(2) 追越し中は,追い越す車との間に,安全な間隔を保つようにしなければなりません。
(3) 車両通行帯のある道路で,最も右側の車両通行帯を通行して追越しをする場合は,追越しが終わつたときは,速やかにそれ以外の車両通行帯に戻らなければなりません。最も右側の車両通行帯を通行し続けると,速度超過になつたり,車間距離が短くなつたりして危険です。また,ほかの車の追越しを妨害し,交通の流れを阻害するなど,迷惑にもなります。
(4) 追い越されるときは,追越しが終わるまで速度を上げてはいけません。また,追越しに十分な余地のない場合は,できるだけ左に寄り進路を譲らなければなりません。
(平26公安告21・一部改正)
交通の方法に関する教則(昭和五十三年十月三十日)
(国家公安委員会告示第三号)
3 追越しの運転手順
追越しは,次の順序でしましよう。
(1) 追越し禁止の場所でないことを確かめる。
(2) 前方の安全を確かめるとともに,バックミラーなどで右側や右斜め後方の安全を確かめる。道路の右側部分にはみ出した追越しをする場合には反対方向の安全を必ず確かめる。
(3) 右側の方向指示器を出す。
(4) 約3秒後,最高速度の制限内で加速しながら進路を緩やかに右にとり,前の車の右側を安全な間隔を保ちながら通過する。
(5) 左側の方向指示器を出す。
(6) 追い越した車がルームミラーで見えるくらいの距離までそのまま進み,進路を緩やかに左にとる。
(7) 合図をやめる。
・・・・・・
(2)上記「3 追越しの運転手順」記載のとおり,「追い越し」行為については,追い越し行為の後に,前車の進路上の,前方に,車線変更をしたうえ進路を変更して自車を進入させることを想定している。
(3)以上のとおりであり,
「追い越し」についての諸規制や交通事故発生の場合の「追い越し行為」に基づく過失割合の認定等も,以上のような国家公安委員会告示第三号交通の方法に関する教則に従った、現実の、ある意味危険性のある「追い越し行為」に関連する運転行為を前提としているものである。
ところが、交通事故訴訟等における過失相殺実務においては、単なる「追い越し禁止違反の存否」という事由のみにより過失相殺の割合を決定しようとする傾向も認められ、この場合においては、前記国家公安委員会告示第三号交通の方法に関する教則による、現実の、ある意味危険性を有する走行態様と異なる、それほど危険性が認められない態様の走行においても、「追い越し禁止違反」として一律に過失相殺をしてしまうという問題が生じてしまう。
例えば、
イ 片側三車線道路で、左端車線と中央の二車線は走行車線、右端車線は追い越し車線であったとして、
ロ 左端車線において他車に追いついた車両が、車線変更をして中央線に入って
ハ 先行車の前に出て
ニ 走行した場合
当初の左端車線に車線変更をして元の車線に戻る必要性はなく中央車線を走行 していくことも可能であり、その走行方法において事故が発生した場合、追い越 しによる特段の危険性の増大ないし発現は認められないにもかかわらず、「追い 越し行為」が存在したとして、過失割合の認定を受けることとなり、合理性が欠 ける場合が生じる。
3 「追い抜き」
「追い抜き行為」は,車線変更を伴わずに,前車の側方を通過して,前車の前方に走行していくことであり,「追い越し」との違いは,後者が前者の側方を通過するについて「車線変更を伴う行為を前提とするのか否か」によるものであり,また,「追い越し行為」は車線変更を伴うことにより「追い越し行為後、再度,車線変更をして,戻らなければならないという危険な行為を伴うものか否か」によるものである。
道路交通法26条〜32条
第四節 追越し等
(車間距離の保持)
第二十六条 車両等は,同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは,その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を,これから保たなければならない。
(罰則 第百十七条の二第一項第四号,第百十七条の二の二第一項第八号ハ,第百十九条第一項第四号,第百二十条第一項第二号)
(進路の変更の禁止)
第二十六条の二 車両は,みだりにその進路を変更してはならない。
2 車両は,進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは,進路を変更してはならない。
3 車両は,車両通行帯を通行している場合において,その車両通行帯が当該車両通行帯を通行している車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示によつて区画されているときは,次に掲げる場合を除き,その道路標示をこえて進路を変更してはならない。
一 第四十条の規定により道路の左側若しくは右側に寄るとき,又は道路の損壊,道路工事その他の障害のためその通行している車両通行帯を通行することができないとき。
二 第四十条の規定に従うため,又は道路の損壊,道路工事その他の障害のため,通行することができなかつた車両通行帯を通行の区分に関する規定に従つて通行しようとするとき。
(罰則 第二項については第百十七条の二第一項第四号,第百十七条の二の二第一項第八号ニ,第百二十条第一項第二号 第三項については第百二十条第一項第三号,同条第三項)
(他の車両に追いつかれた車両の義務)
第二十七条 車両(道路運送法第九条第一項に規定する一般乗合旅客自動車運送事業者による同法第五条第一項第三号に規定する路線定期運行又は同法第三条第二号に掲げる特定旅客自動車運送事業の用に供する自動車(以下「乗合自動車」という。)及びトロリーバスを除く。)は,第二十二条第一項の規定に基づく政令で定める最高速度(以下この条において「最高速度」という。)が高い車両に追いつかれたときは,その追いついた車両が当該車両の追越しを終わるまで速度を増してはならない。最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ,かつ,その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも,同様とする。
2 車両(乗合自動車及びトロリーバスを除く。)は,車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き,最高速度が高い車両に追いつかれ,かつ,道路の中央(当該道路が一方通行となつているときは,当該道路の右側端。以下この項において同じ。)との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては,第十八条第一項の規定にかかわらず,できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない。最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ,かつ,道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において,その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも,同様とする。
(罰則 第百二十条第一項第二号)
(追越しの方法)
第二十八条 車両は,他の車両を追い越そうとするときは,その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
2 車両は,他の車両を追い越そうとする場合において,前車が第二十五条第二項又は第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは,前項の規定にかかわらず,その左側を通行しなければならない。
3 車両は,路面電車を追い越そうとするときは,当該車両が追いついた路面電車の左側を通行しなければならない。ただし,軌道が道路の左側端に寄つて設けられているときは,この限りでない。
4 前三項の場合においては,追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は,反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し,かつ,前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて,できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
(罰則 第一項及び第四項については第百十七条の二第一項第四号,第百十七条の二の二第一項第八号ホ,第百十九条第一項第六号 第二項及び第三項については第百十九条第一項第六号)
(追越しを禁止する場合)
第二十九条 後車は,前車が他の自動車又はトロリーバスを追い越そうとしているときは,追越しを始めてはならない。
(罰則 第百十九条第一項第六号)
(追越しを禁止する場所)
第三十条 車両は,道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては,他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため,進路を変更し,又は前車の側方を通過してはならない。
一 道路のまがりかど附近,上り坂の頂上附近又は勾こう配の急な下り坂
二 トンネル(車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。)
三 交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。),踏切,横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
(罰則 第百十九条第一項第五号,同条第三項)
(停車中の路面電車がある場合の停止又は徐行)
第三十一条 車両は,乗客の乗降のため停車中の路面電車に追いついたときは,当該路面電車の乗客が乗降を終わり,又は当該路面電車から降りた者で当該車両の前方において当該路面電車の左側を横断し,若しくは横断しようとしているものがいなくなるまで,当該路面電車の後方で停止しなければならない。ただし,路面電車に乗降する者の安全を図るため設けられた安全地帯があるとき,又は当該路面電車に乗降する者がいない場合において当該路面電車の左側に当該路面電車から一・五メートル以上の間隔を保つことができるときは,徐行して当該路面電車の左側を通過することができる。
(罰則 第百十九条第一項第六号)
(乗合自動車の発進の保護)
第三十一条の二 停留所において乗客の乗降のため停車していた乗合自動車が発進するため進路を変更しようとして手又は方向指示器により合図をした場合においては,その後方にある車両は,その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き,当該合図をした乗合自動車の進路の変更を妨げてはならない。
(罰則 第百二十条第一項第二号)
(割込み等の禁止)
第三十二条 車両は,法令の規定若しくは警察官の命令により,又は危険を防止するため,停止し,若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し,若しくは徐行している車両等に追いついたときは,その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み,又はその前方を横切つてはならない。
(罰則 第百二十条第一項第二号)