金利及び弁済金額計算に関する法律と実務(補筆)
−−追加借受けと反復弁済計算−−
2002/8/12
大阪弁護士会所属
弁護士 服 部 廣 志
1 金利及び弁済金額計算に関する法律と実務において、金利計算と閏年、端数期間計算処理についての諸方法を紹介して、その当否を検討した。
金利計算の方法として
イ 全期間暦年計算
ロ 端数期間暦年計算
ハ 端数期間365日計算
ニ 365日計算
ホ 抽象的2月29日計算
の他理論的に考え得る計算方法として
ヘ 具体的2月29日計算
ト 端数期間366日計算
等があり、全期間暦年計算方法は多くの弁護士らが誤解に基づき採用していた誤った計算方法であり、未だ採用している消費者金融業者らも存在すること、東京・大阪地裁の債権執行部は債権届出計算について端数期間暦年計算を採用していること、この計算方法は事後的な一回限りの計算に妥当するものであり反復弁済計算などには妥当性を有しない計算方法であること、都市銀行などは計算の煩雑さ回避のためか、契約において365日採用の合意をしたうえ365日計算を採用しており、この計算方法は最も利息金額が多く計算されるものであること、消費貸借契約において当事者間に特別の合意がない場合には端数期間2月29日計算が合理性を有する正当な計算方法であること等について解説した。
2 追加借受けと利息金計算
これらの計算方法のうち、現実に採用されている端数期間暦年計算や端数期間2月29日計算等の場合、一回の貸付後、単に弁済のみが反復される場合であれば特段の不都合、不合理ははないものの、反復弁済計算の途中で、追加借入などを反復等したうえ計算を続行する場合には、検討を要する問題を含んでいる。
何故なら、前記のような計算方法は、貸付日を基準として 年単位期間や端数期間を算定して利息金計算をしており、貸付をした後、弁済のみが反復される場合には、当初の貸金のみを基準として、前記計算方法を採用すれば足り、年単位期間なのか年単位からはずれた端数期間なのかという判別は、当初の貸金の貸付日を基準として判別すれば足りるものの、途中で追加借入をした場合、その利息金計算の計算単位期間について、年単位期間に属するのか、端数期間に属するのかを判別するについて、「当初の貸付日を基準」として判別して計算するのか、「追加借入日を基準」として判別するのか、という問題が生じるからである。
通常、追加借入がある場合において、このような問題があることを前提として、その計算方法を検討している実例は少ないのではないかと推測している。多くの場合、漫然と、当初の貸付日を基準とした貸付日基準計算方法を続行しているか、漫然と計算単位計算方法を採用しているものと推測される。
当初の貸付後、弁済のみを反復しているなら格別、その後 、新たな追加貸金が行われた場合、当初の貸金とは異なった追加貸付という特別な事情が生じたのであるから、この追加貸金という新たな事情を考慮した計算を行うのが当事者の通常の意思に合致するものと考えられる。何故なら、追加貸金をすることにより、貸し主と借り主との間の消費貸借契約の最も重要な貸付元金額に変動が生じるのであり、このような追加貸付を行う場合には、その追加貸付に伴って、分割弁済金額の変更等弁済条件の変更が行なわれる場合も多いからである。
換言すれば、追加貸付行為の発生は、当事者間の消費貸借契約関係の「見直し」につながる要素を持っていると考えられるからである。このような場合、利息金計算の方法としては、追加貸付行為の後は、「この新たに生じた追加貸付日を基準として計算する」というのが合理的である。
例えば、当初の貸金の弁済が殆ど終了して残債務金額が僅少である状態で、新たな貸金を行って場合、なお僅少な残債務の発生日時にこだわり、その日時を基準として計算を続行することが不合理であることは容易にわかる。さらに、弁済や追加借入が何度も反復していっているような場合に、既に精算が完了している一番最初の貸付日を基準として計算するような事態を招来することとなり、不合理であることは明らかである。
すなわち、消費貸借契約の当事者間で特別の合意がなされているのなら格別、そのような特段の合意がない状態において、追加貸付行為が行われた場合には、利息金計算の計算期間について、年単位期間に属するものとして計算するのか、あるいは端数期間に属する期間として計算するのかということは、最新の貸付行為日を基準として判別したうえ計算を続行すべきであるということとなる。
上記のような発想は、既存の消費貸借契約に基づく残債務がある状態で、新たに追加借受けをしたうえ、既存の残債務とあらたな追加借受金とを一本化して、分割弁済するというような形態は、既存残債務と新たな追加借受金を合算した準消費貸借契約の締結があったものと評価するに等しいものであるが、実体法的にも、このような解釈は正当であり、追加借受けがなされ、かつ既存債務と追加借受金について一本化して弁済するというような形態の場合には、最新のあらたな貸付日を基準として計算するという計算方法は、このような実体法の解釈にも合致する正当な計算方法であると考えられる。
上記のように考えると、反復弁済の途中において、新たな貸付行為をした場合、利息金計算の計算基準としての貸付日の日を変更する必要がある(貸付基準計算方法の基準日の変更)。
3 弁済・追加貸付の反復と利息金計算
以上のように、追加貸付をした場合には、「計算基準日としての貸付日の変更」をしたうえ計算を続行すべきである。
しかしながら、現実の消費者金融業者らの貸借関係は、このように単純化し得るものではなく、頻繁に弁済、そして追加貸付がなされている場合が多い。
このように頻繁に弁済や貸付行為が反復、継続して行われているような場合、当初の貸付金ないし当初の貸付日などは、貸借の当事者間において、特別な意味は持たず、むしろ、各弁済による残債務額、そして追加貸付による残債務額という各計算単位毎の計算とその結果が、それのみが重要ということとなってくる。
このように考えてくると、弁済や追加貸付等が頻繁に反復、継続して行われているような場合の計算方法としては、「貸付日に基準をおいて計算する貸付基準日方式」よりも、「各計算単位毎の計算方法」の方が合理性を帯びてくる。結局、このような場合には、各計算単位毎の計算方式を採用すべきということとなってくる(計算方法の変更)。
4 計算方式と制限利率
計算方式について、貸付日基準を採用するか、計算単位基準を採用するかにより利息制限法所定の制限利率を決定する元本金額が異なることとなる。
貸付日基準を採用する場合には、当該貸付日における貸付残元本金額により決定することとなるが、計算単位基準を採用する場合には、常に計算単位期間当初の貸付残元本金額により決定することとなる。
このような計算単位基準を採用すると、追加貸付ないし反復弁済により、利息制限法の制限利率が変動することとなり、残元本が減じれば制限利率が高くなり、残元本が増加すれば制限利率が低くなり得ることとなる。追加貸付や弁済を反復、継続させるような場合には、一般論としては、「結果の妥当性も得られる」と言えるのかもしれない。しかしながら、多くの消費者金融の実態である残元金額が1社あたり数十万円から百数十万円という借受残金額の平均額からすれば、消費者に不利な結果を招来するかもしれない。
大手消費者金融業者のなかには、このような「計算単位毎」計算方式を採用したうえ、各計算単位毎に利率変動させた計算書を送付してくるものがいる。
注記
(現在、制作途中の「計算自由くん」は、上記2種の計算方法の選択を可能とするものである。)