金利計算理論と実務の誤謬ーその3
金利計算における期間計算と利息金計算の不思議
(正しい利息金計算の方法)
−−−暦年に基づく、年利計算−−−
加筆補正 2011/1/7 2010/10/24 2010/2/4 2009/3/13 2009/2/25 2009/1/29 2009/01/23
大阪弁護士会所属
弁護士五右衛門こと
弁護士 服 部 廣 志
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一 期間計算
1 金利計算における期間計算と利息金計算について、必ずしも未だ正確に理解されていないようである。
正しく理解して貰うための要点を記載しておく。
民法は、期間計算については「暦年計算」を採用して、かつ原則として初日不算入による期間計算である。
そして、消費貸借契約における利息金は、特別な合意がない限り、貸付初日分から計算することとなっており、(最高裁昭和33年6月6日判決・民集12・9・1373、初日算入計算)、貸金業の場合、利息金については「年利による計算」が採用されている(貸金業法施行規則別表算式参照)。
2 従って、貸金業における、消費貸借契約の、利息金計算を行うについての期間計算は、(1)初日算入による、(2)年単位に基づく(3)暦年計算を行うこととなる。
二 (貸金業法における)計算方法
1 暦年に基づく、年利計算
前記のとおり、貸金業法は年利計算を採用しています。そして、民法は期間計算について暦年計算を採用していることから、「暦年計算に基づく年利計算」をすることとなります。
2 「年365日計算」や「年366日計算」−暦年計算ではない。
「年365日計算」や「年366日計算」という計算方法もあります。
これは、一年を365日ないし366日として計算する方法であり、「暦年に従ったものではない」ことから、「暦年に基づく年利計算」ではありません。
従って、貸金業者らが、この計算方法を採用すれば貸金業法違反ということになります。
3 全期間暦年計算−年利計算ではない。
利息計算をする日が平年に属する場合には単位年について365を使用し、閏年に属する場合には単位年について366を使用して利息金の計算をする方法です。
この計算方法は、利息金計算について、歴に従って平年に属するのか、閏年に属するのかという視点で計算するものです。
一見、歴に従った計算のように見えます。しかし、利息金計算をする日が平年に属するのか、閏年に属するのかという視点は、本来、利息金計算においては独立した意味はないのです。
利息金計算において意味があるのは単位年として、365を使用するのか366を使用するのかということに意味があり、それは、当該計算日が平年に属するのか閏年に属するのかということは無関係なのです。単位年として、365で計算すべき期間に属しているのか、366で計算すべき期間に属しているのかが意味があるのです。
換言すれば、この計算方法は、単位年は何日か、という年利計算の基本的発想を無視した計算方法なのです。
従って、この計算方法による平年と閏年にまたがった期間の計算利息金は、同じ期間が一年であったとしても、計算始期の日により、計算結果が異なることとなるのです。一年という期間の計算利息金が区々に異なってしまうのです。
計算始期日 終期日 計算利息金額
2000/2/25 2001/2/24 150061
2000/5/10 2001/5/9 149734
2000/10/22 2001/10/21 149919
このように同じ一年であるにもかかわらず、計算始期日により計算利息金額が異なる結果となるのです。理由は、この計算方法は、「単位年という発想を無視している」からなのです。「年利に従った計算ではない」からなのです。この計算方法は、「暦年」に従った「年利計算」としては「誤った方法」であるにもかかわらず、現在も、なお、このような計算方法が正しいかのように紹介されている例を見ます。
貸金業者らが、この計算方法を採用すれば貸金業法違反ということになります。
4 暦年に基づく、年利計算の種別
暦年に基づく年利計算の種別としては、下記のものがある。
端数期間暦年計算・・・・・・・裁判所債権執行部が採用
端数期間年365日計算
端数期間年366日計算
端数期間2月29日計算・・・・法務局が採用(理論的に正当な計算方法)
要するに、年利計算と称するためには、年単位の年利部分については、最低限度、暦年に従った計算をする必要があるということです。
年単位ではない、端数期間について、どのように計算するのかということで年利計算の方法に多様性があるのです(私が、年利計算の方法について、上記のように「端数期間・・・計算」というように命名、識別している理由なのです)。
三 期間計算の不思議
1 2000/2/29 〜 2004/2/29
これは満4年です。
2 2000/3/1 〜 2004/2/29
これも満4年です。
計算の始期日が一日ずれているのに、何故、どちらも満4年になるのかって?
まぁ〜〜1年づつ、計算確認してみて下さい。 まぁ〜〜1年づつ、計算確認してみて下さい。
どちらも、満4年になったでしょう!!
2年は1年が2回、4年は一年が4回反復した期間です。
なぜ、このように言うかといいますと、平年と閏年がある場合、1年と言っても下記のような例があります。
平年−平年 平年−閏年 閏年−平年
一年には上記のように3種類あるのです。従って、4年という場合、3種類ある1年のどれかが合計4回組合わさっているのです。
上記一例の場合・2000年2月29日−−2004年2月29日
「4年後には起算日の応答日29日があるから、その前日である2004年2月28日が4年の満期となり、4年と1日であると考える」ことは、「4回の組み合わせを無視することとなり、民法が定める各1年という期間計算の単位を無視する結果となる」のです。この間違いをしているソフトが多いです。というより、この間違いをしていないソフトの方が少ないように思います。
何年であろうと、それは1年という期間を反復しているだけなのです。1年単位で、期間計算を、反復して下さい。
上記の2000年2月29日−−2004年2月29日を年で表すと(分解すると)次のようになります。
2000年2月29日 〜 2001年2月28日 1年目 閏年−平年
2001年3月 1日 〜 2002年2月28日 2年目 平年−平年
2002年3月 1日 〜 2003年2月28日 3年目 平年−平年
2003年3月 1日 〜 2004年2月29日 4年目 平年−閏年
1年を円周のように考えればよいのです。円周のすべての日を充足している場合が満1年なのです。
このことから、2000年2月29日−−2004年2月29日は満4年となることがご理解いただけると思います。
上記の年利計算方法による場合には計算利息金額は一致しますが、年利計算ではない上記の全期間暦年計算方法などによる場合には計算利息金額が異なる結果となるのです。
年利計算による、利息金計算プログラム、を制作する場合、上記のような期間計算の不思議を取り込む必要があるのです。
(こんな希有な事例まで、正確に計算せよ、っていうのは・・・「趣味の世界」・・・かもしれませんね ??
弁護士五右衛門制作にかかる計算プログラム(少なくとも最新版)は上記不思議を取り込んでいます ?? 趣味の世界ですから・・・ですです)
四 各種法令と年利の採否など
1 基本的には、各種の法令は「年利計算」を前提とした「年利表示」を採用している。民事法定利率、商事法定利率、利息制限法所定の制限利率その他である。
2 民法が定める金銭消費貸借契約の場合、利息の約定方式を定めていないこと、また、民法は期間の単位として、時、日、月、年を認めていることから、民法上の金銭消費貸借における利息金としては、時利、日利、月利、年利があり得ることとなります。
3 貸金業の場合には、貸金業規制法の適用を受けることとなり、同法は前記のとおり年利を採用していることから「年利を採用しなければならない」こととなります。
4 例外的に「年利表示」を採用していない法令もある。
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律、いわゆる出資法である。
出資法5条の高金利処罰規定は次のように定めている。
出資法5条
金銭の貸付けを行う者が、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前2項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前3項の規定の適用については、貸付けの期間が15日未満であるときは、これを15日として利息を計算するものとする。
上記条文を読めばわかるとおり、出資法の高金利処罰規定の利率の定めは、「日利」で規制しているのである。
年利規制ではなく、日利規制である。
五 金利計算における期間計算の不思議を取り込んでいない計算プログラムの期間計算バグ
1 前記の全期間暦年計算のような年利計算ではない計算プログラムの場合、期間計算には特別の意味がないこととなりますので、期間計算にはバグはないこととなります。
このような計算方法は一見して分かります。期間日数表示が、日数のみの表示になっており、年単位の期間表示が欠落しています。
このような計算方法は、その計算方法それ自体が−年利計算の方法としては−バグと表現すべきものです。
昔から−現在も−誤解に基づき−使用、多用されている−計算方法の−代表です。
弁護士や司法書士の方−でさえ−作成、頒布しておられます。過払い金返還請求において多用されている司法書士さん作成の「某式ソフト」、弁護士作成の「某弁護士会ソフト」と言われるものも、この類のものです。
計算方法が「単純で、わかりやすい」という面があります。問題のある計算方法であったとしても「単純で、わかりやすい」というのは、例えば、厳密に1円を追求しない、過払い金返還請求をする場合の計算など(元々、貸金業者の計算方法自体、このような問題のある計算方法を用いている場合があります)、社会的に見て長所なのかもしれません。多用、誤用されている理由かもしれません。 *後注参照
この計算を、その計算方法に即して表現すれば、「全期間暦年−日利−計算」と称すべき計算方法です。
なぜなら、この計算利息金は、年利と表示された利率を、平年に属する日については365で除算して日数を乗算したもの、閏年に属する日については366で除算して日数を乗算したものの合算であるからです。暦年に従った日利というべきものであるからです。
2 「期間計算の不思議」をとりこんでいない年利計算プログラムの場合、上記三に記載した場合にバクが発現することがありますが、それに関連して、それ以外のバグも発現することがあります。
例示しておきます。
イ 2000/2/29〜2001/2/28
この場合、満1年となります。これを異なる期間表示をした場合、バグです。
ロ 2001/2/28〜2004/2/28
この場合、3年と1日となります。これを異なる期間表示をした場合、バグです。
続く
利息金計算の構造と種別 ↓ ↓
*後注
行政レベルの諸交付金等の交付金額について、年度途中から起算するような場合、配分交付金額算定などに関連して、この全期間暦年計算に類似する計算が妥当する場合が相当あります。この理由から、行政レベルでは、全期間暦年−類似−計算方法が結構使用されています(全期間暦年−配分計算)。
その意味で、この計算方法は、なじみやすいものなのです。
しかし、目的を考えなければなりません。目的が異なれば計算方法も異なります。目的に従った正当な計算方法を採用すべきなのです。
PS
2000/2/29 〜 2004/2/29
これが満4年であることを理解しておられるのに、
2000/3/1 〜 2004/2/29
これも満4年であることに気づいておられない場合もあるようです。
一年毎に期間を計算すれば、いずれも満4年となることに気づかれるのですが、、、。