自 己 破 産 の 仕 組 み
 
−−社会生活上のリスクを補填する制度が「保険」であり、
     社会生活上のリスクからの解放が「破産に伴う免責制度」である−−
 
            大阪弁護士会所属
                   弁護士 服 部 陽 子
                   弁護士 五 右 衛 門
(執筆途中)
破産手続きの概要等
 自己破産手続きが、どのようなものであるのかを、なるべく理解しやすい表現で、整理してみよう。
 
目次
 
・ 破産手続きの役割
・ 免責の制度
・ 破産と免責の異同
・ 破産手続きに必要な費用など
・ 破産による不利益など
・ 破産による不利益など2ー財産拠出など
・ 任意整理との異同
・ 各種債権の優先順位
・ 労働債権の取り扱い
・ 倒産に伴う解雇の効力など
・ 破産制度目的に反する行為の是正ー否認権
・ 破産開始決定前の処理の指針
・ 団体交渉応諾義務など
・ 個人自己破産申請必要書類など
・ 倒産と取引関係者の対応など−未記載
 
本文
 
・ 破産手続きの役割
 
一 破産手続きの役割
 
1 破産手続きは、全債権者のための、全体的、包括的、強制執行手続きである。
 
イ 破産手続きの意味を誤解される人が多い。
  破産手続きは債務者のための制度であると誤解される人が多い。
ロ 破産手続きは債務者のための制度ではない。債権者のための手続きと言える。
ハ 債務者が債務超過や支払いが不能となり全債権者に対する弁済ができない状態となった場合、各債権者の個別の取りたてや強制執行等に任せておけば、早い者勝ち、執拗な取りたてをした債権者は弁済を受けることができても、じっと債務者の任意の弁済を待っている債権者は取りはぐれることとなる。また、債務者が不公平な弁済などをする場合もあり得る。
 さまざまな理由により不公平、不公正な弁済が行われる危険性がある。
ニ このような不公平、不公正な弁済を阻止し、債権者の個別の強制執行を禁止し、裁判所が選任した管財人が、全債権者のために、債務者の財産等を換金し、債権者に対し、法律の定めに従った弁済をする手続き、「全体的、包括的、強制執行手続き」=これが破産手続きである。
 
2 個別執行の禁止
 
(破産債権の行使)
100条  破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
2  前項の規定は、次に掲げる行為によって破産債権である租税等の請求権を行使する場合については、適用しない。
一  破産手続開始の時に破産財団に属する財産に対して既にされている国税滞納処分
二  徴収の権限を有する者による還付金又は過誤納金の充当
(他の手続の失効等)
42条  破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行又は企業担保権の実行で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
 
(国税滞納処分等の取扱い)
43条  破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分は、することができない。
2  破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既にされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げない。
3  破産手続開始の決定があったときは、破産手続が終了するまでの間は、罰金、科料及び追徴の時効は、進行しない。免責許可の申立てがあった後当該申立てについての裁判が確定するまでの間(破産手続開始の決定前に免責許可の申立てがあった場合にあっては、破産手続開始の決定後当該申立てについての裁判が確定するまでの間)も、同様とする。
 
(破産財団に関する訴えの取扱い)
44条  破産手続開始の決定があったときは、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
2  破産管財人は、前項の規定により中断した訴訟手続のうち破産債権に関しないものを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
3  前項の場合においては、相手方の破産者に対する訴訟費用請求権は、財団債権とする。
4  破産手続が終了したときは、破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
5  破産者は、前項の規定により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
6  第一項の規定により中断した訴訟手続について第二項の規定による受継があるまでに破産手続が終了したときは、破産者は、当然訴訟手続を受継する。
 
3 破産手続きの意味
 
 (目的)
1条
 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
 
  従って、破産手続きとは、全債権者のための、債務者の全財産に対する、全体的、包括的、強制執行手続きといえる。
債権者のための手続きである。
 このことは、自然人と異なり免責という制度がない、会社破産、法人破産の場合を考えれば容易に 理解可能である。
 
・ 免責の制度
 
二 免責の制度
 
1 破産をした人にのみ、債務の追及から解放され、人生をやり直すことを可能にしてくれる制度=免責の制度が利用できることとなっている。
2 破産をした人が、裁判所に対し、自己の債務についての責任を免除してくれるように申し立てる制度であり、裁判所は、破産法が免責不許可事由として定めている免責を不許可にしてもよいという事由がない限り、免責の決定をしてくれることとなっている。
 
3 この免責の制度は債務者を助ける、債務者のための制度である。
4 事業の失敗などで、人間、一生かかっても返済できない金額の債務を負うこともある。これの弁済を求め続ければ、その人の人生は借金の弁済をしていくのみとなる。
 このような状況から救うのが免責の制度である。全財産に対する、全体的な強制執行ともいうべき破産宣告を受け、全財産に対する強制執行を受けて裸となった債務者について、それ以上の責任の追及を停止させるのである。裸となった債務者に対する責任の追及は過酷であるからである。
 
 債権者を泣かせ、債務者を救うのである。
 
 自己破産をする債務者をなじる債権者がいる。しかし、債務者の破産により経営が悪化した人に対する救済制度もある。債権者も、いつ、債務者に転化するかもしれない。社会の持つ相互扶助制度かもしれない。
 
 社会生活上のリスクを補填する制度が保険であり、社会生活上のリスクからの解放が免責制度である。
 
 この破産宣告に伴う免責制度は社会の持つ相互扶助制度のひとつであることを理解すべきである。 
 
・ 破産と免責の異同
 
三 破産と免責の混同
 
 上に説明したような債権者のための制度である破産と債務者のための制度である免責の制度を渾然一体に考える人が多い。
 渾然一体に考えるのも無理からぬところであるが、上記のように区別して理解すべきである。
 
・ 破産手続きに必要な費用など
 
四 破産手続きに必要な費用など
 
1 お金がないから自己破産をするのに、お金がなければ破産ができないのですか〜〜?
 このような質問をする人がいる。あまり甘え過ぎちゃ〜いけない。
2 人が死亡したとして、お金を支払わなければ枕経を上げて貰うこともできない。
 人が死亡したとして、お金を支払わなければ火葬すらして貰えない。
 破産は、いわば人の経済的な死を意味する。
 経済的な死である破産手続きをするのに費用が必要なのは当然でもある。
 
・ 破産による不利益など
 
破産による不利益など
1 破産をした場合に受ける社会生活上の不利益は殆どないように思える。
  選挙権を失うわけでもなく、行動の自由を奪われるわけでもなく、特別の不利益はない。
  法人の取締役であった者は破産宣告(破産開始決定)と同時に取締役の地位を失うこととなる。しかし、破産宣告を前提として翌日再度取締役に選任されることは可能である。
 
2 破産手続きをする上で、若干の不利益はある。
イ 管財人が選任される破産事件の場合、管財人の職務遂行中は、破産者への手紙などは全部破産管財人のところに配達され、破産者には配達されない。
 従って、自分のところに手紙などの配達を希望する場合には、手紙などの宛先を同居の親族宛にして貰う等のテクニークが必要となる。
ロ 破産管財人の事情聴取などに応じろ義務があることから、常に破産管財人の呼び出しに応じられる体勢をとっておく必要がある。
 
3 金融機関等のいわゆるブラックリストに掲載される(掲載期間は概ね5ないし7年程度)ことから概ね5年ないし7年間程度は金融機関からの融資は事実上受けられなくなるという不利益はある。
 (破産者に融資をする悪質金融業者もいる。破産をした者は原則として、再度の破産が難しいことに着目した貸金である。注意が必要である)
 
4 破産者であるとの風評、烙印
  ひと昔前までは、破産者について、あたかも人格的な問題があるかのような評価がないとは言い切れなかった。
  しかし、銀行などによる乱脈融資とバブルの崩壊後、裁判所の年間破産事件受理件数は最大を更新し続け、破産に対する社会的評価は大きく変貌を遂げたように思える。
  今、破産者に対し、人格的偏見や評価はない。社会のさまざまな歪みに直撃された人という評価である。
  安易に自己破産に頼るという姿勢は慎むべきである。しかし、精一杯努力してもなお弁済不能ということであれば、躊躇せず自己破産を選択し、新たな人生の構築に向かって欲しいと思う。
 
5 流れを止めた川
 破産する以前、電話一本で数百万円のお金を右から左に動かしていた人であっても、破産をした瞬間、1万円のお金をつくることも困難となる。
 川は流れているからこそ、その力を発揮する。流れを止めた川は瞬時に変化する。
 この激変を予測できず、困惑する人がいる。
 流れることを止めた川は、もはや川ではないことを十二分に理解をして欲しい!!
 
6 破産による不利益その2
   破産による財産拠出 を参照して下さい。
 
・ 破産による不利益など2ー財産拠出など
 
一 破産による財産拠出
 
1 破産手続きは、既に説明しましたように債務者の全財産に対する強制執行ともいうべきものですので、その財産全部(但し、生活に最低限度必要な財産や裁判所が認めた自由財産の範囲内のお金は除きます)を拠出して換金処分の対象となります。
  人は生活していく必要がありますので、生活するに必要な最小限度の財産として認められる、「自由財産の範囲内のもの」は除きます。
 
イ 所有預金等は拠出する必要があります。
 
ロ 保険契約など契約を解約することにより解約返戻金があるものは解約する必要があります。
 
ハ 自動車など換金できるものは換金処分の対象となります。
 
ニ 家財道具類も、換金対象財産(例外を除きます)になりますので、家財道具をそのまま使用したい場合には、親族等に買い取って貰う必要があります。
 
2 破産前に信販などを利用して購入したものについては、通常、その所有権は信販会社に留保されており、信販会社は引き渡しを求めてきますので、引き渡す必要があります。
 その購入したものを そのまま使用したい場合には、親族等に買い取って貰う必要があります。
 
・ 任意整理との異同
 
任意整理・民事再生との異同
一 破産
 
1 破産手続きは、裁判所に破産を申立し裁判所の監督の下で法律に従って債務の整理をする手続きであり
2 この破産手続きをした場合、破産者は免責の申し立てをできることとなっている。
 
二 任意整理
 
1 任意整理は、裁判所に申立をせず、債務者本人又はその代理人となった弁護士らが、個別に債権者らと交渉して債務の整理をする手続きであり、
2 この任意の整理手続きを選択した場合、破産手続きを経由していないので、免責の申し立てをすることはできない。
3 従って、この任意整理という手続きを選択するのは
イ 自己破産するほど債務額が多額ではない場合
ロ 任意整理の手続きにより、名目上の債務金額を相当程度、減縮できる見通しがある場合(貸金業者の主張する残債権額は多額であるが、利息制限法による引き直し計算が可能な事件であって、引き直し計算の結果、債権額が相当程度減縮できる場合など)
ハ 破産宣告を受けることを避ける場合など
である。
 
4 任意整理により債務の減縮が可能な理由
 
イ 貸金業者らの多くは利息制限法を超過する利息金を徴収している。
 
ロ 他方、貸金業登録をした貸金業者らは、貸金業法所定の書類等の交付など貸金業法を遵守している場合、債務者から支払を受けた利息制限法を超過する利息金の受領・保持(返還請求の拒絶=貸金業法43条のみなし利息の適用)が認められている。
 
ハ しかしながら、貸金業者らの多くは貸金業法を遵守していないので利息制限法所定の利息金の保持が認められない。
 
ニ 従って、弁護士らが介入し債務者が貸金業者らに支払った利息金を利息制限法の利率により引き直し計算をし超過利息金を元本に充当する計算をし直すと、債務者の債務の金額が減縮されたり、逆に過払いとなって過払い金の返還請求をすることが可能となる。
 
ホ このような理由から債務の減縮が可能となっているのである。
 
注・・なお、全国の弁護士らが利息制限法に引き直し計算をしたり、また過払いの期間の逆利息金の計算をする金利計算プログラムとして「消費者金融金利計算の実務と返せ計算くん」というものがあり、過払いの場合の逆利息金計算をするものとしては先駆的プログラムであり、全国の弁護士らのなかで、圧倒的シェアを確保している。
 
三 個人民事再生
 
・ 各種債権の優先順位
 
各種債権の優先順位
一 財団債権は、破産債権に、優先する。
 
(財団債権の取扱い)
151条  財団債権は、破産債権に先立って、弁済する。
 
 
(財団債権となる請求権)
148条  次に掲げる請求権は、財団債権とする。
一  破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
 
二  破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
 
三  破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの
 
四  破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
 
五  事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
 
六  委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
 
七  第五十三条第一項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
 
八  破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第五十三条第一項又は第二項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権
 
二 財団債権内における優先財団債権
 
(破産財団不足の場合の弁済方法等)
第百五十二条  破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合により弁済する。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力を妨げない。
2  前項の規定にかかわらず、同項本文に規定する場合における第百四十八条第一項第一号及び第二号に掲げる財団債権(債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって、同条第四項に規定するものを含む。)は、他の財団債権に先立って、弁済する
 
・ 労働債権の取り扱い
 
労働債権の取り扱い
一 民法
   民法においては、労働者の労働債権の全額について、一般の先取特権が認められている。
 
(雇用関係の先取特権)
民法308条  雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
 
二 破産法
   破産法では、破産手続き開始前の原因に基づいて生じた労働債権のうち
 イ  未払い給料請求権については、破産手続き開始前3ケ月間のもの
 ロ  退職手当請求権については、退職前3ケ月間の給料に相当する額のもの
を、財団債権として、保護している。  
 
(使用人の給料等)
破産法149条  破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
2  破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。
   
三 未払賃金の立替払い制度
   「賃金の支払の確保等に関する法律」(以下「賃確法」という。)に基づき、企業が「倒産」したために賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者に対して、その未払賃金の一定の範囲について、独立行政法人労働者健康福祉機構(以下「機構」という。)が事業主に代わって支払う制度があります。
   詳細は、下記URLを参照して下さい。
   http://www.rofuku.go.jp/kinrosyashien/miharai.html
 なお、解雇予告手当は、対象外とされています。
四 破産管財手続きの運用と書式(大阪地方裁判所・大阪弁護士会新破産法検討プロジェクトチーム編・新日本法規出版)
 
  未払い給料、退職金及び解雇予告手当について
1 財団債権又は優先的破産債権となる
2 信用失墜時の混乱を最小限度にとどめ、財団散逸の共益的費用となる
  ことから、債務者の財務状況を勘案して可能であれば、破産手続開始前の弁済が妥当である。
 
 労働債権については、上記のように法令で、一定の保護が与えられている。
 しかし、法令による保護以上に、実際上意味を持つのは、上記大阪地裁のような運用指針であろう。 なぜなら、破産会社の資産状況によっては、破産申立前段階で、申立代理人による労働債権の弁済ないし一部弁済が期待できる場合があるからである。
 なお、労働債権について、財団債権として認める範囲に関し、大阪地裁と東京地裁で、その取扱が異なるようである。「賃金」の解釈の差違によるのかもしれない。
 
五 源泉徴収所得税、特別徴収地方税
 
   源泉徴収所得税は破産会社所在地の税務署管轄であるが、特別徴収地方税は各従業員の住所地所在の税務署管轄である。
 
・ 倒産に伴う解雇の効力など
 
破産申立に伴う解雇とその効力
一 企業が破産申立を決定した場合、通常、従業員に対し、解雇通知をすることとなる。
  この倒産に伴う解雇の効力が問題となる。
 
1 遡及解雇の効力
 
  解雇通知をする際に、「解雇通知発信日以前の日付けで解雇する」旨の書面が発信される事例をみることがある。
  このような遡及解雇通知が、その文面どおりの効力を持たないことは議論するまでもない。解雇する企業側に、このような解雇の意思表示の到達前の日付で、意思表示が到達したものとする法的根拠はないからである。
 
2 解雇予告期間ないし予告手当支払いなき解雇の効力
 
最高裁昭和35年3月11日第二小法廷判決
 使用者が労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであつて、本件解雇の通知は三〇日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。
 
・ 破産制度目的に反する行為の是正ー否認権
 
9975破産制度目的に反する行為の是正−否認権
 
破産制度目的に反する行為の是正
一 破産制度の目的に反する行為の是正−否認権行使
 
1 否認権
 
  破産制度の目的に反するような、不公正、不公正な行為については、破産管財人は、その行為を否認することができるとされている。
 
(破産債権者を害する行為の否認)
160条  次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一  破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二  破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3  破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
161条  破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一  当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二  破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三  相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
2  前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一  破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
二  破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三  破産者の親族又は同居者
 
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
162条  次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一  破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二  破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一  債権者が前条第二項各号に掲げる者のいずれかである場合
二  前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3  第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
 
(手形債務支払の場合等の例外)
163条  前条第一項第一号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。
2  前項の場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる。
3  前条第一項の規定は、破産者が租税等の請求権又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。
 
(権利変動の対抗要件の否認)
164条  支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から十五日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。
2  前項の規定は、権利取得の効力を生ずる登録について準用する。
 
(執行行為の否認)
165条  否認権は、否認しようとする行為について執行力のある債務名義があるとき、又はその行為が執行行為に基づくものであるときでも、行使することを妨げない。
 
,(支払の停止を要件とする否認の制限)
166条  破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為(第百六十条第三項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。
 
(否認権行使の効果)
167条  否認権の行使は、破産財団を原状に復させる。
2  第百六十条第三項に規定する行為が否認された場合において、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りる。
 
(破産者の受けた反対給付に関する相手方の権利等)
168条  第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
一  破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
二  破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
2  前項第二号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
一  破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
二  破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
三  破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利
3  前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
4  破産管財人は、第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為を否認しようとするときは、前条第一項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から前三項の規定により財団債権となる額(第一項第一号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。
 
(相手方の債権の回復)
169条  第百六十二条第一項に規定する行為が否認された場合において、相手方がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、相手方の債権は、これによって原状に復する。
 
(転得者に対する否認権)
170条  次に掲げる場合には、否認権は、転得者に対しても、行使することができる。
一  転得者が転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知っていたとき。
二  転得者が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知らなかったときは、この限りでない。
三  転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した場合において、それぞれその前者に対して否認の原因があるとき。
2  第百六十七条第二項の規定は、前項第三号の規定により否認権の行使があった場合について準用する。
 
(否認権のための保全処分)
171条  裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
2  前項の規定による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができる。
3  裁判所は、申立てにより又は職権で、第一項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。
4  第一項の規定による保全処分及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5  前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
6  第四項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
7  前各項の規定は、破産手続開始の申立てを棄却する決定に対して第三十三条第一項の即時抗告があった場合について準用する。
 
(保全処分に係る手続の続行と担保の取扱い)
172条  前条第一項(同条第七項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができる。
2  破産管財人が破産手続開始の決定後一月以内に前項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しないときは、当該保全処分は、その効力を失う。
3  破産管財人は、第一項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しようとする場合において、前条第二項(同条第七項において準用する場合を含む。)に規定する担保の全部又は一部が破産財団に属する財産でないときは、その担保の全部又は一部を破産財団に属する財産による担保に変換しなければならない。
4  民事保全法 (平成元年法律第九十一号)第十八条 並びに第二章第四節 (第三十七条第五項から第七項までを除く。)及び第五節 の規定は、第一項の規定により破産管財人が続行する手続に係る保全処分について準用する。
 
(否認権の行使)
173条  否認権は、訴え、否認の請求又は抗弁によって、破産管財人が行使する。
2  前項の訴え及び否認の請求事件は、破産裁判所が管轄する。
 
(否認の請求)
174条  否認の請求をするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない。
2  否認の請求を認容し、又はこれを棄却する裁判は、理由を付した決定でしなければならない。
3  裁判所は、前項の決定をする場合には、相手方又は転得者を審尋しなければならない。
4  否認の請求を認容する決定があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5  否認の請求の手続は、破産手続が終了したときは、終了する。
 
(否認の請求を認容する決定に対する異議の訴え)
175条  否認の請求を認容する決定に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
2  前項の訴えは、破産裁判所が管轄する。
3  第一項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、同項の決定を認可し、変更し、又は取り消す。
4  第一項の決定を認可する判決が確定したときは、その決定は、確定判決と同一の効力を有する。同項の訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときも、同様とする。
5  第一項の決定を認可し、又は変更する判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第二百五十九条第一項 の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる。
6  第一項の訴えに係る訴訟手続は、破産手続が終了したときは、第四十四条第四項の規定にかかわらず、終了する。
 
(否認権行使の期間)
176条  否認権は、破産手続開始の日から二年を経過したときは、行使することができない。否認しようとする行為の日から二十年を経過したときも、同様とする。
 
・ 破産開始決定前の処理の指針
 
9976破産開始決定前における処理の指針
 
破産申立前における処理の指針
一 破産申立前における処理の指針
 
1 破産申立を決意した以降は、破産管財人による否認権の対象となる行為をしてはならない。
 
2 破産財団の減少となるような事由については、極力、その解消に努め、他方、破産財団の増加となるような事由については、その確保に努めるべきである。
 
3 債権者の中には、破産申立前であることを理由として、自らの債権の回収を図る行為、弁済を求めてくる場合があるが、破産法が否認権を設けた趣旨、破産制度の目的等からすれば、そのような不公正、不公平な行為をしてはならない。
 
4 破産申立手続きの実務の中では、従前、破産管財人がその職責として行っていた事務処理について、破産申立代理人が、破産申立前に処理することが求められている。
  これは、大量の破産事件を裁判所が、迅速に処理するためでもある。
  従って、実際上、破産申立代理人の破産申立前の事務処理、破産申立の準備行為についても、破産開始決定後の処理に準じた処理をすることが望まれる。
 
・ 団体交渉応諾義務など
9977団体交渉応諾義務など
 
労働組合との団体交渉応諾義務など
一 破産管財人の団体交渉応諾義務など
 
イ 2002年11月26日衆議院法務委員会
  
  青木政府参考委員
   破産法に基づく手続きにより、その後、処理されることとなりますので、その手続きによらないで、破産管財人として労働者との話し合いによって処理することはできない・・・ので、一般的には、破産管財人に団体交渉応諾義務があるとするのは難しい・・・・と思う。
   全く応諾義務がないかというとそうとも言えない、、という意味で、個別の事案にあたって団体交渉応諾義務がある場合もある。
 
二 破産開始決定前の団体交渉応諾義務など
 
9979倒産と取引関係者の対応など
 
・ 個人自己破産申請必要書類など
 
自己破産申請必要書類など
一 個人自己破産申請必要書類など
 
1 戸籍謄本(又は外国人登録原票記載事項証明書)
   注意→3ケ月以内のもの
2 住民票
   注意→3ケ月以内のもの・世帯全員の記載があるもの・本籍の記載のあるもの
続く
 
 
・ 倒産と取引関係者の対応など−未記載
 
 
 管財人について
1 裁判所から選任された管財人(弁護士)が破産手続きにおける清算業務を担当する。
2 債権者の保護と債務者の再生のための作業でもある。
 
9990著者紹介
 
著者紹介
 
弁護士服部陽子(岸野陽子)
 京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了・法務博士
 
弁護士五右衛門(弁護士服部廣志)
 神戸大学法学部卒業
 山形地裁、東京地裁(職務代行)、神戸家裁、神戸地裁判事補、神戸簡裁判事を経て、現在、大阪弁護士会所属弁護士
 日弁連法務研究財団、日本賠償科学会、国際コンサルタンツグループ、法とコンピューター学会などに所属し、「金利及び弁済金額計算に関する法律と実務・付録プログラム」、「限定相続の実務」、「消費者金融金利計算の実務と返せ計算くん」、「中学生にわかる民事訴訟の仕組み」、「刑事訴訟の仕組み」、「貸金業法施行規則別表算式と貸付条件記載・掲示・利息金計算(金利の黒本)」など弁護士ら専門家の間でベストセラーとなっている著作などがある他、「嘘見破るくん」、「ライプニッツ係数計算書」、「弁済供託計算書」その他多数の法律電卓を考案している。
 また、税理士会、行政書士関連団体、青少年健全育成会その他の団体において、多様な講演活動等もしている他、各種団体に対する連載執筆活動等もしている。
 法律系インターネットの世界においては、本名よりもハンドルネームである「弁護士五右衛門」の方が著名でもある。「知識や知恵は、先人のものを盗め!」という基本的発想をハンドルネームに託している。