貸金業法施行規則別表の算式の意味
−−弁済日当日の利息金−−
2005/3/20−最終訂正加筆3/22 12稿
大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
第一 問題点の所在と検討
一 貸金業法施行規則別表
二 利息金計算の方法 、種類の意味と機能
三 算式が弁済日前日までの発生利息金の計算となっている意味など
四 別表算式の意味と解釈
五 最高裁中村調査官の見解について
六 借受け当日の弁済について
七 試作計算書
八 付記
注書
・ 注書1−最高裁平成3年7月18日判決の「利用期間」の判示の意味
注書2−施行規則の法定実質年利計算と利息金計算
注書3−Σの意味
九 結論
十 実務上の取扱など
第一 問題点の所在と検討
一 貸金業法施行規則別表
1 貸金業法施行規則11条は、次のような規定をおいている。
(貸付条件の掲示)
第11条 法第14条第1号 に規定する内閣府令で定める方法は、次の各号に掲げる貸付けの区分に応じ、当該各号に定める方法とする。
一 金銭の貸付け(次号に掲げるものを除く。) 別表中の算式一
二 手形の割引及びその媒介 別表中の算式一又は算式二のいずれか(算式二を用いる場合にあつては、割引率であることを明示するものとする。)
2 そして、同施行規則別表には、次の算式が記載されている。
別表 (第11条関係)
算式一 Σni=1(Ui・Ti)
算式二 (Ui+F)・Ti
nは、返済回数
Tiは、年を単位として表した次の期間
イ iが1のときは、金銭を交付した日から第一回の弁済日の前日までの期間
ロ iが2以上のときは、直前の弁済日から第i回の弁済日の前日までの期間
Uiは、次の値
イ iが1のときは、実際に利用可能な貸付けの金額
ロ iが2以上のときは、次式により算出する未返済金の額
Ui=U(i−1)−(P(i−1)−R・U(i−1)・T(i−1))
Piは、第i回の弁済の金額とする。
Rは、法第十四条第一号に規定する貸付けの利率
Fは、法第十四条第一号に規定する利息及びみなし利息
3 この別表の算式については、別稿「民法想定の標準的、消費貸借契約における利息金計算の方法」(http://www.zunou.gr.jp/hattori/kasituke.htm)において若干触れ、この算式は一見、計算単位構造を採用しているようにも見える旨記載したが、この点を掘り下げて考えてみるのが本稿の主題である。
二 利息金計算の方法 、種類の意味と機能
1 年利計算の方法
年利と称される利息金計算の方法には大別して、五種類の方法がある。また、年利よる金利計算には、「計算単位構造による計算」と「貸付日基準構造による計算」の二種類の計算方法、計算構造がある。(「金利及び弁済金額計算に関する法律と実務・付録、元利計算くん」、「消費者金融金利計算の実務と返せ計算くん」(http://www.ofours.com/books/03/)参照)。
2 利息金計算の方法 、種類の意味と機能
上記のとおり、年利計算の方法には大別して5種類のものがあり、またその計算構造には2種類のものがあると分類できるとしても、その分類の意味と機能は1点に集約できる。
それは、利息金計算において、計算対象期間である日数に乗算する「利率」の数値をどうするのかという点である。
逆に言えば、この乗算する「利率」を表現するものとして、5種類の年利計算の方法とか、利息計算の構造という表現があるのである。
3 貸金業法施行規則別表
2記載の観点から、貸金業法施行規則別表を見て見ると、その発生利息金計算の算式として、R・U(i−1)・T(i−1)という記載のみがある。
この記載は、「計算対象期間日数に利率を乗算せよ」との意味である。
そして、その記載のなかに、乗算すべき「利率をどうするか」という記載がないのである。
上記立法は極めて巧妙につくられている。
即ち、年利計算の方法として5種類の計算方法のうちどの計算方法を採用したとしても、また利息金計算の構造としていずれの計算構造を採用したとしても妥当する表現なのである。「計算対象期間日数に利率を乗算せよ」との表現は、計算方法や計算構造に関係しない表現なのである。
4 別表算式と年利計算の方法と構造
このように考えてくると、別表の算式の記載の表現は、年利計算の方法や構造とは関係しないことがわかってくる。
即ち、どの年利計算の方法をも前提とせず、またいずれの計算構造をも前提としていないこととなる。
三 算式が弁済日前日までの発生利息金の計算となっている意味など
1 別表の算式が、弁済日当日の利息金を計算表示しないこととなっていることから、宮崎県弁護士会所属の宮田尚典弁護士は「貸金業法施行規則上、貸金業者は弁済日当日の利息金の徴収をしてはならない」と主張しておられる。
2 私は、消費貸借契約に関する大審院の判例からも、弁済日当日の利息金を徴収することは差し支えないと考えていた。
「1民法上は特別な合意ない限り両端が正当と考えられるものの貸金業規制法施行規則別表では、貸金業者が表示すべき利息について「弁済日の前日までの期間」の利息を表示すべきと定められていることから、貸金業者が、貸金を行うについて、貸金業法施行規則と異なり、弁済当日分までの利息金を徴収する旨の合意をしていない場合、弁済当日分の利息金を徴収することは、貸金業法及び同施行規則の表示と異なる利息金を徴収する結果となるという考え方もあり得ないわけではない。
2 ただ、この貸付条件等の掲示は、純法律理論に従っているものであり、弁済日の前日の24時00分、即ち弁済日当日の0時00分に弁済するということであれば(通常、あり得ないと考えられるが)、 何ら問題はないものであり、この貸金業施行規則は純粋な法理論に従っているに過ぎないものとも言える。
この考え方に従えば、貸付条件等の掲示にもかかわらず、弁済日の午前0時00分を過ぎて弁済した場合には、弁済日当日の1日分の利息金の支払い義務があることとなる。」(拙稿・消費者金融金利計算の実務と返せ計算くん59頁以下参照)
3 上記の点を再度、検討してみる。
上記別表の算式を見ると、貸金元金について、貸付初日から、中間弁済日(最終弁済日は、とりあえず除くこととする)、そして最終弁済日の前日までの利息金を計算計上することとなっている。
最終弁済日を除く中間弁済日の利息金は、当該弁済日の残元金額について、次の弁済日までの利息金計算において計上されることとなっているからである。
しかしながら、この算式の未弁済金額(=残元金額)の算式 Ui=U(i−1)−(P(i−1)−R・U(i−1)・T(i−1)) を素直に見てくると、別表記載の算式の意味は「弁済日当日の1日分の利息金については、弁済日当日の残元金計算において考慮しない」という意味であることとなり、前記宮田尚典弁護士の見解が正当ではないのかという疑問がでてくる。
現在、思いつきで検討している段階であるが、「貸金業法施行規則上も、弁済日の利息金を徴収して差し支えない」との従前の見解は、一部改める必要があるのではないかと思い巡らして始めている。
消費貸借契約における利息金発生の理論に対し、貸金業法施行規則は、弁済日の残元金計算方法について、弁済日当日の利息金を除外した計算方法を定めているものと理解でき、利息金計算、利息金徴収についての特別法ということにならないかということである。
四 別表算式の意味と解釈
1 上記のとおり、貸金業法施行規則上では、弁済日に関してのみ、当日の残元金計算について、これを計算から除外した計算方法を定めていることとなり、この計算により残元金が残らない限り、弁済日当日の利息金を徴収してはならないこととなる。
2 では、なぜ、貸金業法施行規則は、消費貸借契約における利息金発生の理論を否定し、貸金業者に関してのみ、このような例外的な立場を採用したのか。
推測であるが、次の2点が考えられる。
まず、第一点は、貸付初日の利息金の徴収を認めていることから、その均衡による合理性の存在である。1日に満たない貸付初日の利息金の徴収を認めるのだから、他方1日に満たない弁済日当日の利息金の徴収を否定しても、実質上問題とはなり得ない。
次に第二に、利息金発生の根本理論に絡む理由があるのではないかと推測している。
貸付初日利息金の徴収を認めた昭和33年6月6日の最高裁判所判決は「貸金の場合には、利息は借り受け金の利用の対価であることから、借主は、特約がない限り、借り受けた日からこれを支払うべきであり、初日の利息を控除すべきではない」と判示している。この最高裁判決の判示のなかで、利息金は「借り受け金の利用の対価」と表現されており、利息金は元本利用ないし利用可能性に対する対価であるわけである。
そして、視点を変えて、金銭の借り主の弁済日当日の元本利用ないし利用の可能性を実質的に考えてみると、弁済日当日、借り主は貸し主への弁済準備として元本を保持しているものであって、実質上、その利用ないし利用の可能性はないに等しいものである。
貸金業法施行規則上にも、「実際に利用可能な・・」金員という趣旨の文言もあり、現実的な利用可能性を重視、直視しているのである。
この実質上、弁済日当日は借り主は元本利用ないし利用の可能性はないという事情に、上記第一点の理由をも加味すれば、弁済日当日の利息金について、残元金計算から除外し、その計算により残元金が残らない限り、弁済日当日の利息金の徴収を認めない実質的な理由と合理性が理解できることとなる。
五 最高裁中村調査官の見解について
1 ジュリスト149頁に、中村也寸志最高裁調査官が、日栄最高裁判決について、次ぎのように記載しているとのことである(ML投稿より)。
「本判決の判示する「利用期間」とは、特約のない限り、借入日と弁済日を含むもの(弁済日に一部弁済がされた場合には、弁済日に弁済による充当前の元本に対する利息が発生する)と考えられる。貸金業の規制等に関する法法律14条1号で貸付利率の掲示が貸金業者に義務づけられているところ、貸金業の規制等に関する法律施行規則11条1項1号によれば、この貸付利率の算出方法は別表中の算式一で定める方法とする旨規定されており、別表中の算式一では、この貸付利率を算出するための期間は、金銭を交付した日から弁済日の前日までの期間とされている。これは、貸金業の規制等に関する法律における貸付利率の算出方法を定めたものであり、利息発生の終了日が実体法上元本の弁済日の前日までであることを意味するものではないと思われる。」(後記注1参照)
2 まず、上記見解が、「消費貸借契約における利息金発生について、特約ない限り、貸付初日及び弁済日の弁済充当前元本についての利息金が発生する」との点は前記したとおり、消費貸借理論として正当である。
3 次ぎに、施行規則別表の算式記載の意味について、「これは、貸金業の規制等に関する法律における貸付利率の算出方法を定めたものであり、利息発生の終了日が実体法上元本の弁済日の前日までであることを意味するものではないと思われる」との論述部分である。
「利息発生の終了日が実体法上元本の弁済日の前日までであることを意味するものではない」との点については、前記のとおり、消費貸借理論からすれば、「弁済日当日の充当前元本についても利息金が発生する」ことは理論上当然であり、その限りにおいて、中村調査官意見は正当である。
しかし、施行規則別表は、貸金業法14条1号で義務づけられた「貸付利率の掲示」条項を受けた規則であるにしても、その記載には、「弁済日当日の未弁済金=残元金」を計算する算式をも記載することしているのである。
そして、未弁済金、すなわち残元金額の計算算式として、前日までの利息金と残元金を弁済すれば、元利合計は 0 となるという算式を記載しているのである。
このように貸金業法、同法施行規則の条項、別表の記載を総合して見れば、これらの法令は、前記のとおり、弁済日当日の残元金計算の特例を定めているものと理解するのが正当ではないかと、現在は、思いめぐらしている。
中村調査官意見では、「なぜ、弁済日当日の未弁済金=残元金を計算するについて、計算式に挿入する利息金額が弁済前日までの分としたのか」の説明ができない。「なぜ、弁済日当日までの利息金を用いて計算しないのか」について、十分、説得力ある説明がなされていないと考えるのである。
( ただ、前記中村調査官の論旨について、前後の文章などを直接検討していないので明確ではないが、中村調査官の「貸金業の規制等に関する法律における貸付利率の算出方法を定めたものであり、利息発生の終了日が実体法上元本の弁済日の前日までであることを意味するものではないと思われる」との論述を、文言どおり読めば、「実体法上の利息金発生の日時だけについて」言及しているものであって、「貸金業法上の弁済日当日分の利息金の徴収の可否」には触れていないとも理解できるところであり、このような理解が正しいと仮定すれば中村調査官の論述は本稿と無関係ということとなる。これについては、中村調査官の論述を直接拝読したうえで再度結論をだしたいと考えている。)
4 貸金業法14条は掲示すべき項目を列挙するなかで、貸付利率について、「当該年率に小数点以下3位未満の端数があるときは、これを切り捨てるものとする」と規定している。従来からの銀行実務等において採用されていたのは小数点以下11桁の数値であつた。貸金業法は、実質的に、利息金計算における一要素である年率についての規制を行い、利息金計算方法を定めるという形式で、現実の利息金額に影響を与え、関与しているのである(但し、後記注書2記載のとおり、この条項は、単に利率の表示についてのみ規定しているものであって、現実に使用する利率と関係しないという立場に立てば、この4記載の部分は本稿の理由付けにはならないこととなる)。
5 以上の事情等を総合勘案すれば、現段階においては、前記のとおり、貸金業法施行規則別表は、残元金計算方法についての特例を定めたものと理解する他ないのではないかと思っている。
(まぁ〜そんな固いこと言わず、「単に、貸付条件の表示なんだから、元利金計算とは関係ない」、なんて割り切って考えることができればいいんですが、少なくとも貸金業者らを刑罰の威嚇でもって履行を強制する貸付条件の表示なんだから、そんなに簡単に割り切れるものでもないんでは〜〜〜??なんちゃって? 振り子は揺れる、、右から左へ、、、正直、わかりませぇ〜〜ん。)
六 借受け当日の弁済について
金銭を借り受けた当日に全額を弁済した場合、貸付初日利息金算入の原則と弁済当日の利息金不算入が対立する。
この場合には、初日利息金算入の原則を優先させ、1日分の利息金の支払い義務があると考えるのが常識的な答えでしょう。
七 試作計算書
この別表方式の計算書「別表計算くん」(但し、貸付日基準構造のもの)を制作・試作してみた。
計算書の発生利息金額欄には前日までの発生利息金額を計上し、未払利息金額欄には弁済当日の弁済充当計算において弁済当日利息金を除外した残元金についての利息金(及び累計未払利息金)を計上することとなる。
制作にとまどったものの、一見、かわった計算書になった。
弁済計算くん試作品の提供を求められ添付送信させて頂いた方には、送信不要のご連絡を頂かない限り、この別表計算くんも添付ファイルで送信させて頂き見て貰うつもりでいる。通常の元利金計算をする「弁済計算くん」と「別表計算くん」との計算の違いを理解して貰うためでもある。
八 付記
上記別表の算式の表現を担当された方は、コンピューター等による利息金計算の手法を理解している人ではないかと想像している。
立法担当者が、上記のような問題点を理解、把握したうえで、上記のような別表の算式表現などを採用したのか否かについては疑問があるが、法令の条文としては、欠陥というか、漏れがない。年利計算の諸方法や計算構造の違いを包含する、漏れのない条項である。
ただ、このような形にしたということは、ある意味、不親切な条項となっており、上記条項の意味や趣旨を理解できない人が、法令違反を起こしてしまう可能性がある。
注書1
中村調査官のこの論旨は、日栄最高裁平成15年7月18日判決についてのものと思われる(未確認)。
その「利用期間」の判示部分は利息制限法の制限利率に関する判示であり、利息制限法違反の有無を判定するについての利用期間については、貸付初日と弁済日の両方を算入することとなる。
注書2
利息制限法に従った利息金計算は、みなし利息という評価を前提としてなされるべきものであるから、当事者間の約定に基づく利息金計算方法による算出利息が、利息制限法の利息金計算による算出利息を超過する場合には利息制限法違反となる。
貸金業法ないし貸金業法施行規則にいう「実質年率」とは、利息制限法所定の利息金計算の方法により算出されるものであり、文字どおり、実質上の年率を指す。
ただ、貸金業法ないし貸金業法施行規則は、貸金業者に対し、刑罰をもって貸付条件の掲示義務を課するについて、その掲示すべき貸付利率(実質年率)の計算方法を法定している。
「この貸付利率(実質年率)の表示ないし計算方法と貸金業者が債務者との間で行う利息金計算の方法との関係」が本稿で取り上げている問題である。
この法定された計算について、法が定めているのは、次のとおりである。
1 貸金業法14条
同法施行規則で定める計算方法により算出した元本により算出した貸付利率(実質年率)について、小数点以下4桁を切り捨て処理したもの
2 同法施行規則11条
別表記載の算式(又は金融庁長官の指定する方法)により算出した元本により算出した貸付利率(実質年率)であって、少なくとも小数点以下1桁まで表示したもの
この貸金業法ないし同法施行規則の規定を見ると、単に、掲示すべき貸付利率(実質年率)の計算方法を法定しているだけであって、これは貸金業者が債務者との間で行う利息金計算の方法とは関係しないという見方もある。兵庫県弁護士会の蔭山文夫弁護士の見解でもある。
確かに、貸付条件の掲示という貸付を受けようとする人に対し開示すべきものの内容は、借り主保護という観点から考えても100%の正確性を要請されるものとも言えず、またその開示する貸付利率(実質年率)という数値について、例えば小数点以下11桁まで必要であるとの理由もない。そのような観点からは、上記の貸金業法や同法施行規則の小数点以下の数値の取扱いには異論はないものと思われる。
この意味では、蔭山文夫弁護士の見解にも理由があると思われる。
しかしながら、上記に指摘してきたように、何故、貸金業法施行規則別表記載の算式は、通常行われるべき弁済当日の利息金加算による元利金計算の方法を採用しなかったのか。この謎というか、この問題が真に本稿で取り上げている問題なのである。
平成11年の貸金業法の改正の理由のひとつに、掲示すべき貸付利率は実質年率であることを明確化するということもあったはずである。貸金業法ないし同法施行規則は、掲示すべき貸付利率については、可及的に実質年率とするとの発想があったはずである。
何故、弁済当日の弁済充当前の利息金計算を排除したのか。
初日利息金算入という原則から、単純に、弁済当日は次回弁済の初日となると考えて、算式をつくってしまったのか(仮にそうであるなら、前記の「別表の算式の表現を担当された方は、コンピューター等による利息金計算の手法を理解している人ではないか」との点は撤回し、逆に、「全くコンピューター等による利息金計算の手法等を理解していない人が関与したもの」と言わざるを得ない。単純な過誤となるからである。)
この点についての説得力ある答えがでない限り、本稿でのべたような、貸金業法施行規則は、利息金計算方法についての特例を定めたものではないのかという議論がでてくるのである。
注書3
Σ=ギリシャ文字(英語のsum ) 合計 和という意味
九 結論
1 民法所定の消費貸借契約における利息金は、貸付初日から弁済当日分まで発生することは最高裁昭和33年6月6日判決の論旨などから明らかである。
2 但し、貸金業法上は、貸金業法施行規則11条・別表により定められた元本計算方法を採用しなければならないことから、元本計算の前提となる利息金額算出のための期間は弁済日当日の前日となる。
施行規則11条及び別表でいう「弁済日」とは、約定弁済日ではなく「現実に弁済した日」と解釈され、また「利息金計算の期間が弁済日の前日」とされているのは、いずれも、借り主が実質的に使用した、ないし使用可能な日数を実質的に判定、法定したものであり、実質的な年利を計算させるためである。
3 従ってまた、分割弁済の場合に掲示すべき貸付利率の計算は、2記載の弁済日の前日までの期間計算による貸付利率を計算表示しなければならないこととなる。
但し、前記のとおりの切り捨て処理表示などが認められていることから、貸金業法施行規則により表示、掲示される貸付利率は、実際の貸金業者と借り主間で行う元利金計算において用いられる貸付利率とは、若干異なる結果となる場合がある。
4 貸金業法等が掲示を求めている3記載の貸付利率は、現実の、実質的な利率(実質年利)に可及的に近くなることが求められているものの、前記のとおり小数点以下の切り捨て表示などの実際上の理由から100%同一のものであることを求められておらず、これについては借主保護の観点からは「問題ではない、無視できる範囲内のものである」との判断がなされている。
5 貸金業法上の「貸付利率(実質年利)」とは
イ 利息制限法に従った元本、利息に基づく
ロ 実際に利用可能な日数として貸金業法が法定した弁済日の前日までの日数
ハ による金利
を意味していることとなる。
6 以上から、貸金業法、同法施行規則・別表は、消費貸借契約における利息金発生、徴収についての民法理論を借主側に有利に変更したものであり、民事特別法となる。
十 実務上の取扱、指針など
1 最高裁事務総局民事局監修の「消費者信用関係事件に関する執務資料(その二)」において、「別表記載の計算方法は、返済方式のいかんを問わずに共通である」と論述しているようであるが、これは単に表示貸付利率について指摘するものではなく、現実の利息金計算において使用されるべき計算方法として把握しているものと思われる。
2 社団法人貸金業協会連合会制作にかかる実務上の取扱指針を記載した書籍には、貸金業法施行規則11条及び別表を引用したうえで、「利息金は、民法上は弁済日当日分も発生することとされているが、分割弁済の場合、貸金業法上は、弁済日の前日までの扱いとなる」旨記載し、弁済日当日分の利息金の徴収をできない旨の記載がなされており、実務上もそのように運用されているのではないかと推測している。
3 都市銀行等は、貸金業法の規制ではないことから、弁済日当日分の利息金をも徴収しているようである。
完